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第81話 氷の刃


氷河(グラシエル)(・ソード)


 魔人 クロセルの手に氷の剣が現れる。

 冷気を放つその剣は、周囲の大気を昇華させ強度を増す。


「さて、じゃあ始めようか」


「……っ」


 寒さと恐怖で体が震え上がる。

 どう考えても今のユズルには勝ち目がほぼなかった。

 実力も環境も経験も、あまりにも不利すぎる。

 そもそもユズルは、未だに1人で魔人を倒せたことがないのだ。

 ベルゼブブの時はキリヒトが、影の魔人の時はユリカがいなければ勝てなかった。

 それに今回の相手は王族階級、これまでの敵とは訳が違う。

 それでも、ただ黙って死ぬより最後まで抗って死んだ方がましだ!


「ローレンス式抜刀術撥の型 流星!」


氷河(グラシエル)(・ウォール)


 不透明な氷の壁がユズルの前に現れる。

 それを斬撃で破壊し、壁を超えるが……


(っ、いねぇ!)


 氷の障壁の先に、クロセルの姿はなかった。

 不透明な氷の壁はただ防御するためのものじゃなく、目隠しとしての役割もあったのだ。

 そして気づく、自分が今無防備だということを。


氷河(グラシエル)斬撃(・スラッシュ)


「がは……っ」


 背中に深い斬撃を入れられ、そのまま地面に突き落とされる。

 だが不思議と出血はしていなかった。


(どういう……っ!)


 傷口に触れた瞬間、ユズルの顔が凍りつく。

 なんとユズルの傷口を硬い氷が覆っていたのだ。


「傷口を固められては、回復魔法は無意味だ。どうだ、痛いだろう?」


 ユズルはその言葉に絶望する。


(まさかこの痛みを背負ったまま戦えって言うのか?そんなの、無理だ……)


 氷で覆われているせいで傷の規模は分からないが、恐らくかなり深いと思われる。

 それに痛みが尋常ではなく、立っているだけで手先が震えるほどだった。

 出血しないのは不幸中の幸いだが、傷口を固められる方が遥かに苦しかった。


「初めての感覚だろう?どうだい、魔人になる気になったかね?」


「なって……ねぇよ……っ」


「声もまともに発せてないじゃないか。もう諦めたらどうだい?」


「諦めて……たまるかよ!」


 ふらつきながらもユズルは立ち上がる。

 もし死ぬにしても、もう少し時間を稼ぎたかった。

 きっと今頃ダイクさんが避難を呼びかけてくれているはずだ。


(周りの住民の安全が確保できるまで、何としても耐える!)


 それにユズルはまだ1つ、望みをかけていた。

 それは大佐(グランドゼーブ)戦で見せたあの魔人化である。

 何が引き金となって発動するか分からない。

 だがユズルは王都での一件後、何度かあの夢を見ていたのだ。

 その度ユリカと口付けを交わし、魔人化の進行を抑えていた。

 恐らく、一度力を解放してしまったが為に抑え込む力が緩くなっているのだろう。


(だがそれはあくまで最終手段だ。俺は魔人の力を借りてまで生きたいとは思わない。けど、この力を使って守れる命があるなら、悔しいが使わなきゃ行けねぇ!)


 まだそのときではないと自分に言い聞かせ、前を向く。

 未だに傷1つ付いていないクロセルは、ユズルを見下ろし半目で笑いかける。


「ローレンス式抜刀術拾の型──」


 痛みを忘れて奔る!


「──烈風!」


 壁すら作らせない速度の斬撃。

 1点に集中させたその一撃は、


氷河(グラシエル)(・フリテーション)れ」


 まるで踊るかのように軽くかわされた。

 だがここで油断するほどユズルは馬鹿ではない。


「っ、聖蒼!」


 立て続けに伍の型を放つ。

 三本の斬撃がクロセルを襲うが、当たる前に氷の結晶となって消滅してしまった。


「僕相手に水魔法は悪手だよ」


「っ……!」


 水魔法が効かないのは分かっている。

 分かっている上でユズルは、あることを試そうとしていた。


「伍の型 聖蒼!」


「無駄だって、学習しなよ」


 クロセルは軽く手を振り、目の前の水の斬撃を凍らせる。

 だがユズルは立て続けに伍の型を打ち続けた。

 そしてクロセルが感覚を掴んできたとき、遂にユズルは仕掛けた。


(ローレンス式抜刀術参の型 劫火× 伍の型 聖蒼──っ)


 見た目は先程と変わらない。

 だがその水はただの水ではなかった。


「またその技か、見飽きたよ……」


 クロセルが同じ要領で斬撃に手を振る。

 しかしその水は凍る事無くクロセルに直撃した。

 何故ならその水は、


「っ、熱湯?!」


 クロセルは驚いた表情を見せる。

 ユズルが狙っていたのはこれだった。

 わざと聖蒼を打ち続け相手に慣らせることで、この不意打ちに、この一瞬の隙に賭けたのだ。

 

 そして、放つ──。


「ローレンス式抜刀術初ノ型 聖龍!!!」


 光を纏ったその一撃は、魔人の身体を捉えたのだった。


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