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第80話 王族階級



「ほう、精霊使いとは珍しい」


(寒い……)


 冬だから、という理由だけでは無い。

 魔人(あいつ)が現れたあとから一層辺りの温度が下がったように感じる。


(それにさっきの魔法、氷系統だった……)


 初めて見る系統の魔法に足がすくむ。

 どういった魔法が来るのか、予想がつかないからだ。


(村に居た時に読んだ書物を頼りに、感覚で対応するしかねぇ……!あとは実践で身につけるしか……っ)


 ダイクがアーロンさんをおぶったのを確認し、ユズルが先手を打つ。


「ローレンス式抜刀術肆の型 貫雷!」


 雷のように早く、雷のように強い一撃。

 そこにシュバリエルの力が重なってより大きな一撃が生まれる。


「今だ……っ!」


 注意を引いている隙にダイクを逃がす。


(くそっ、反動が今までの比じゃねぇ!)


 シュバリエルが覚醒したことにより、聖剣 シュバルツは本来の力を取り戻した。

 それゆえ受ける反動も桁違いで……、


「その様子を見ると、扱い慣れてないように見えるけど、どうだい?」


「……っ!」


 剣が動かない。

 視線を剣先に移すと、刃の部分が凍り付き地面と同化していた。


「そっちに気を取られすぎだよ。氷河(グラシエル・)(ランス)


 ユズルの目の前に、魔人の手のひらが向けられる。

 その刹那、つらら状の氷の刃がユズルを襲いかかった。

 剣は依然として抜けそうにない。

 だが手を離せば最後、勝ち目が完全に消失する。


(頼む、俺を守ってくれ……!)


「ローレンス式抜刀術拾壱の型 煌煌!」


 剣から発された光は周囲の氷を溶かし、つらら状の氷の刃を粉砕した。


「ローレンス式抜刀術壱の型 煌龍!」


 隙を与えない一撃。

 1秒先のことだって予想できないこの状況、落ち着いて戦っていたとて死ぬだろう。

 それにユズルの服装は、あまりに戦闘には向いていなかった。


(大国のど真ん中だ。警戒しようだなんで、1ミリも思わなかった……)


 距離を取るかのように高く張飛し、身につけていた防寒具を投げ捨てる。

 これで多少は動きやすくなったが、感じたことの無い冷気がユズルの体を襲った。


(このままじゃ凍死しちまう!長期戦は無理だ!)


 まだ戦闘が開始して数分だが、既に体に限界が来ていた。

 まずはこの寒さを克服しなければ。


「ローレンス式抜刀術参の型 劫火!」


 剣先から赤き炎が吹き出し、剣全体に纏わりつく。

 見かけ以上の熱量は無いが、ないよりはマシだ。


「雷に光に炎に、君の魔法は変幻自在だね」


 魔人が体の前で軽く手を振る。

 その刹那、剣に纏っていた炎が凍りつく。


「なっ……!」


「でもどれも中途半端だ。何か一つを極めない限り、そこら辺の凡人と同じだ」


「くっ……!」


 魔人の言うことは決して間違っていない。

 ユズルはただでさえ魔法を覚えて日が浅いのにも関わらず、色んな属性に手を出している。

 ローレンス式抜刀術を使用する上で複数の属性を使役することは仕方の無いことなのだが、それ故にどれも中途半端なのだ。


「君は強くなりたいと思ったことはあるかね?」


「……なんなら今も思ってるよ……っ!」


 死にそうなほど寒いのに、不思議と冷や汗が湧き出る。

 その汗が寒さで冷え上がりいっそう体温を奪っていく。


「なら、私の元に来ないか?」


「……どういう、意味だ?」


「そのままの意味さ。強くなりたいんだろう?こんなところで凍死するより遥かにいいと思うが?」


「……そいつはどんな冗談だよ」


「真面目な話さ、私は君が気に入った。新人育成は得意なんだよ?こう見えて。どうだい?」


 今のユズルは思考力・判断力共にかけていた。

 だがこれだけは分かる。

 

 こいつは危険だ。


「お前は俺を育ててどうするつもりなんだ?」


「うーん、人類を滅ぼすため?」


「……は?」


「邪魔なんだよね、人間。君も魔人になればわかるよ。弱いだけの下等種がうじゃうじゃ湧いて、僕たちの邪魔をする。最高にイライラする」


 頭が痛くなる。

 寒さのせいなのか怒りのせいなのか。

 いや、今はさほどキレていない。

 呆れているのだ、口を開ければ人の命を軽く見た発言をする彼らに。


「なぜ俺にやらせようとする?」


「だって、弱い奴ら相手に時間かけたくないもん。君みたいな弱者でも、魔人にしちゃえばまだ使える駒になる」


「魔人にするだと……?」


「あぁそうさ、僕の血を分けてあげよう。僕は強いから、きっと君も強くなれる」


「……ふざけるなよ」


「ふざけてないよ、真剣さ」


 自分勝手な言葉を並べまくし立てるように話す魔人。

 まともな話が出来る相手じゃない、ここで話を続けても体力を奪われるだけだ。


「その目は……交渉不成立かな?」


「ああ、不成立だよ」


 ユズルは剣を握る手に力を込める。

 それに答えるかのように聖剣(シュバルツ)は輝き出し、洞窟内を照らした。


「そうだ、自己紹介がまだだったね」


 英雄の生まれの地で始まった戦い。

 その戦いは早くも絶望の色で染る。


「王族階級クロセル・ヴァージン、君の名前は?」


 王族階級との初会合。

 とても人間1人で叶う相手ではない。

 だがユズルは決して引こうとはしなかった。


(おじいちゃんが見ている前で、引けるわけがないだろう!)


「俺の名はユズル、英雄(ローレンス)の孫だ!」


 刃を突き立て、目の前の魔人に宣戦布告する。


 異国の地にて、遂に戦闘が始まる──。

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