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第78話 夢の少女



「あ、おかえりなさい」 


「ただいま、ユリカ。……それ、禁忌魔法のか?」


「はい。こうした空き時間に少しずつ解読しているんです。今日読んだのは……」


 そう言って広げたページを見せてくる。

 だが1文字も読めそうにない。


「その、なんて書いてあるんだ?」


「このページは精霊魔法について書いてあります」 


「精霊魔法?」


「はい」


 ユリカによるとはるか昔、人間は精霊と呼ばれる種族と手を取り合い生きていたとか。

 魔力においても戦闘スキルにおいても精霊が一歩上を行くらしく、精霊と契約した者はその時代を象徴する存在となった、と記述されていた。


「もしかしたら今もどこかで眠ってたりするかもですね」


「それはアツいな」 


 ユリカの話を聞いていると自分も読みたくなるが、ユズルは愚か普通の人間には読み解くことは出来ない。


(多分、悪魔がいた時代に生きた人間で今も生き残ってるのはユリカぐらいだよな)


 コールドスリープされていたとて、ユリカは今から何百年も前に生まれている。

 古代の文字列解読者に最も近いのはユリカだろう。


「それで、どうでした?」


「一応おじいちゃんの話は聞けたよ。話を聞く限り特に変わったとこはなくて、努力して強くなった努力家って感じの印象だった」


「そうですか。(シュバルツ)のことは?」


「その事なんだが、明日にしようって言われちゃってな。どうやら連れていきたい所があるらしくて」


 明日も少し1人にしてしまうかもしれない、と伝えたところ「気にしないで大丈夫」という回答が返ってきた。


(ユリカって見た目の割にドライっていうか、大人っぽいっていうか……)


 ユリカの言動には余裕を感じる。


「とりあえず、夕飯でも食べに行こうか」


「そうしましょう」


 連れていきたい所とは何処なのだろうか。

 そんなことを考えながら部屋を出るのだった。




 翌日。

 いつも通り昼過ぎまで鍛冶場で仕事をしていたアーロンさんは、いつもより早めに仕事を切り上げユズルの元へとやってきた。


「とりあえずこれを」


 そう言って差し出してきたのは、鞘に入った一本の剣。


「打ち直しておいた。不思議なことにガタがほとんど無くてな」


 アーロンさんによると「年代物でここまでいい状態のものは初めて見た」という。

 おじいちゃんの使い方が良かったのか、はたまたアーロンさんの腕が良かったのか。


(それともこの剣に使われてる鉱石が……)


「とりあえず日が暮れるまでに行きたいのでな。着いてこい」


 そうして歩いて数十分。

 向かった先は森の中の洞窟だった。


「ローレンスはこの中でその鉱石を見つけたんだ。そしてローレンスがこの国を出て数年後、俺も実際にこの洞窟の中を見に行った」


 昨日同様ランプに火を灯すとアーロンさんは中へと歩き出した。


「私も最初はローレンスの話をあまり信じていなかった。だが自分の目で見てそれが真実だと知った時、胸がざわついたんだ」


 胸のざわつきの正体。

 それは奥へと進んだ先にあった。


「これって……」


「そうだ」


 そこにはまるで何かを祀るような祭壇があり、その中央には何かが置かれていた痕跡が……


「……すっー、おじいちゃんこっから取ってきたんですか?」


「……そう言っていた」


 ユズルは頭を抱える。

 アーロンさんも微妙な顔をしている。


(普通に考えて、土地神様とかそういう類のものじゃないのかこれ?勝手に持ち出して、しかも剣にしたなんてやばくないか?)


「……ローレンスは昔からこういうところがあってな、私も悪い予感はしてたんだ」


 そう言いつつも、アーロンさんは「ただ……」と続ける。


「この国の歴史書には、ここに何かが祀られているという記述は無かったんだ。勿論、この近辺に住んでいる人たちも知らなかった」


 どうやらおじいちゃんが阿呆なだけじゃないようだ。

 原因不明の鉱石。

 ユズルは軽い気持ちで鞘から剣を抜き、祭壇へと剣先を向ける。

 その時だった。



「……あれ?」


 突然強い光に襲われたかと思うと、そこは例の夢の中だった。


(なんで俺は今夢を見ている?襲撃されて気を失ったのか?)


 必死に先程までの記憶を辿る。

 もし気がかりなことがあるとしたら……


「てかこの水晶、前よりヒビが深くなってないか?」


 少女が眠る水晶。

 そのヒビが前来た時よりかなり深くなっていた。

 いや、もう深いという次元ではない。


「……ゴクッ」


 ユズルは唾を飲み込み、水晶にそっと触れる。

 その刹那、水晶の中に眠る少女の目が開かれ……


 そして──。



「……あ………れ?」


 目が覚めるとそこは、先程の洞窟だった。

 だが、アーロンさんがいない。


「どこに行って……」


「……貴方は、誰ですか?」


「え──」


 振り返り、思わず声を失う。


 そこに立っていたのは、あの夢の中の少女だった。


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