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第77話 昔話



「あの……」


 朝食を終えたふたりはアーロンさんがいる工場へと足を運んでいた。

 だが、


「アーロンさんは今仕事の最中だ。後にしてくれ」


 出入口付近で作業していた別の鍛冶師にそう言われ追い返されてしまった。

 話によると日が沈む頃にはいつも仕事を切り上げるそうだ。

 ということでそれまで時間を潰すことになったのだが……


「折角ならメイシスに貰った地図使いたいよなぁ」


「その地図の場所巡りでもします?」


「そうするか」


 ただ観光するだけでも楽しいのだが、折角ならメイシスに貰った地図も使いたい。

 ということでまず最初に向かったのは、町の真ん中にある巨大な噴水である。

 そこには、今も変わらず巨大な噴水の姿があった。

 しかし、噴水の隣には新設されたと思われる銅像が建てられいた。

 その銅像の足元には人物名と説明が書かれており、何やら重要人物のようだ。

 詳細を知るためにその説明書きの前に立つと、そこには『我が国の英雄 ローレンス』と書かれていた。


「この人が……」


 ユズルは銅像を見上げる。

 生まれて初めて見る祖父の姿。

 たとえ銅像だとしても、祖父との邂逅は感動的なものでなにか応えるものがあった。


「貴方のおかげで今の私たちがあります。ありがとうございます」


 ユズルはそうつぶやき、銅像に軽く会釈する。


「今は手元にないけれどシュバルツを借りさせてもらってます。魔人だって倒せるようになりました」


 まるでそこに祖父がいるかのように銅像に話しかける。


「いつか貴方のように強くなります。悲しみに、憎しみに負けないように」


 そう言って祖父の元を後にした。

 その後二人は森の中にある巨大な湖や、辺境伯の城下町を探検した後宿舎へと帰宅した。

 時刻もちょうど夕刻を回り、辺りが暗くなり始める。


「ユズル、帰ってきてるか?」


 扉越しにアーロンさんの声が聞こえ、ユズルが扉を開ける。


「二人で話をしたい。着いてこい」


「は、はい」


 言われるがまま部屋を出る。

 季節は冬に差し掛かり、肌寒い日が続いていた。

 特に朝方と夜が寒く、こうして外出する時は防寒具が必須である。


(海沿いなのも寒い理由の一つだよな……)


 アーロンさんに連れられて着いたのは、工場の裏にある小さな小屋だった。

 外見を見る限りかなりの年代物だと思われたが、中に入るとまるでさっき掃除したかのような清潔感があった。


「ここはあの工場ができる前に使ってた鍛冶場だ」


 そう言ってランプに火を灯す。

 工場ができる前に使っていた鍛冶場。


「つまりここは……」


「ここは、俺とローレンスの思い出の場所なんだ」


 席に着くなりアーロンさんがパイプに火をつける。

 パイプから出た煙の匂いが、いっそうあの頃の臨場感を煽った。


「まず、……何から話そうか」


 天井を見上げる素振りを見せる。

 それが思い出そうとしている仕草なのか、はたまた流れ出る涙をせき止めるためなのか、ユズルには分からなかった。


「まずは、出会いからだな。私とローレンスが出会ったのは──」


 そう言ってアーロンさんは、二人の出会い、進学後の関係、そしてシュバルツを打った時の話を語り出した。


「この剣の話は、明日でもいいか?」


「あ、大丈夫です」


「すまんな、(シュバルツ)の話をするなら場所を変えたくてな」


「場所、ですか?」


「ああ。(シュバルツ)はただの剣じゃないんだ」


 そう言ってアーロンさんが持ってきたのは小さな包に入った白い鉱石。

 それはまるでシュバルツと同じで──、



「これは(シュバルツ)を打った時に出た欠片だ。この鉱石は、未だに判明されてないんだ」



「……え?」


 未判明の鉱石。

 果たしてそれがどんな意味を持つのか。


 真実は未だ、闇の中に──。

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