表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/186

第76話 宿舎



 気がつけば日がもう沈もうとしていた。

 アーロン達に工場内を案内されたユズル達はその後、宿舎に案内された。

 工場の宿舎とは思えない綺麗な作りに軽く驚く。

 下手すればそこら辺の宿より高級感がある。


「飯は3食出る。だが他で食べる用がある時は、指定時間の2時間前までに1回の受付に申し出るように」


 寝るところだけでなく食事まで出るのか。

 あまりの待遇に思わず長居をしてしまいそうだがそうもいかない。


(海を挟んだとはいえここは王都の隣国。追おうと思えば何時でも追っ手はやってくる)


 あくまでここに行き着いたのは船をおりるためであり、そこがたまたまおじいちゃん、基英雄ローレンスの故郷だっただけで長居する用はないのだ。


(とりあえずこの剣のことを聞いて、機会があればおじいちゃんのことも……)


「そうだ、お前さんの剣貸してくれないか?」


「え?あ、はい」


 アーロンに言われるがままユズルは腰から剣を抜き手渡す。


「あと、背中にかけてあるやつも、だ」


 ユズルの背中には、大佐(グランドゼーブ)との戦いで使用したあの剣がささっていた。


「この剣たちは打ち直しておく。年代物だ、そろそろガタが来てるだろう」


 正直、助かる話だった。

 聖剣(シュバルツ)に関してはあまり変化はないように見えたが、フォーラ村で作ってもらった剣はかなりガタが来ていた。


(良く考えれば、ベルゼブブ戦の時もグランドゼーブ戦の時もトドメを刺したのはこの剣だっけな)


 むしろここまでよく耐えたと思う。

 フォーラ村の鍛冶師の腕は大したものだ。


「募る話は明日にでも聞くとしよう。今日は休め」


「ありがとうございます、それではまた明日」


 明日の朝ごはんに思いを募らせながら眠りにつくのだった。




(……またこの夢)


 王都の時以来、実に数ヶ月ぶりにあの夢を見た。

 真っ暗な空間に光り輝く水晶。

 だが前回と明らかに違うところがあった。


(そういえば、あの脈打つ心臓は?)


 辺りを見渡してもそれらしきものは見当たらない。

 それどころかよくよく見ればこの水晶の夢と、あの脈打つ心臓の夢には違う点がいくつもあった。

 話せば長くなるので割愛するが、結論からいえば


「俺は別々の夢を見ている、ってことか」


 脈打つ心臓の夢はなんの夢なのか検討が着く。

 意識が覚醒した時全身が侵食されていたところを見ると、恐らくあの夢は魔人化の夢(前兆)で間違いないだろう。


「だとしたら、この水晶の夢はなんなんだ?」


 そっと水晶に近づくと小さなヒビが入っているのが確認できた。


(前来た時にはこんなヒビ無かった。今回が初めてだ)


 まるで内側から破られるかのように水晶にヒビが刻まれている。

 そうこうしてるうちに辺りが明るくなり始めた。

 どうやらもう朝らしい。


「……次来た時は、会えそうだな」


 水晶の中に眠る少女にそう告げ、ユズルは朝を迎えた。




 アイアスブルク辺境伯領に来て2日目の朝。

 期待していた朝食は、想像以上のものだった。


 ……いや、想像できるものではなかった。

 机に並べられた料理は、どれも見たことがないものだった。


(そりゃそうだよな、ここはもう東の大陸じゃないんだ)


 とりあえず1番近くに置かれているゼリー状の物を口に運んでみる。

 色は水色でいかにも甘そうな見た目をしているが……


「……これ、もしかしてスープか?」


 ゼリー状の物は口に入れた瞬間溶けてなくなってしまったが、代わりに口の中にはコクのあるスープの味が広がっていた。


「ユズルさん、これみてください」


 そういうユリカの手には伸びに伸びた謎の物体が。

 皿から肩まで、およそ人一人分は伸びている。


「それ、美味しいのか?」


「……ん、美味しいですよ」


 恐る恐るユズルも口に運ぶ。

 確かに美味い。


 知らない土地での食事にはいつも驚かされる。

 同時にこの食事の時間が、旅の疲れを癒せる唯一の時間と言っても過言ではなかった。

 時間を忘れ二人で謎の料理たちを頬張る。


 朝食を終えたらアーロンさんに話を聞きに行こう。

 そして知ることになる。


 英雄 ローレンスという男の生涯を。

 

 聖剣 シュバルツに隠された秘密を──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ