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第74話 港町



 ザザーッ

 

 波の音が船内に響き渡る。

 コンコンッ


「……起きてるか?」


「………………ん」


 重い瞼を擦り、体を伸ばす。

 ドアの向こうから船長が2人に語りかける。


「そろそろ乗り換えの地点だ。準備しておけ」


 そう言い船長はその場を後にする。


 王都を出て数日。

 長い様に思えた船旅は、疲れを癒し切る前に終わりを告げた。


(いや、乗り換えてからが本当の船旅だよな……)


 部屋から外の様子は伺えない為、ユズルは一度甲板に出た。


「……すげぇ」


 ユズルの目の前にはどこまでも続く大海原が。

 そして海と空の境界面から太陽が顔を出す。

 こんなに落ち着いた朝はいつぶりだろうか。


「ユズルさん、そんな薄着じゃ風邪引きますよ?」


 背中に何かが掛けられユズルは振り向く。

 そこにはユリカの姿があった。


「ありがとう。……綺麗だね」


「……そうですね、綺麗です」


 朝の冷たい海風に晒されながら、2人は徐々に近くなる島を見つめる。

 その島の岸には船が密集しており、港らしきところは陸の奥まで続いているのが見えた。

 恐らく中継地として有名な島なのだろう。

 もしくは漁業が盛んなのかもしれない。

 そんなことを考えてしまうほど、ユズルの心には余裕があった。


「降りたらここに書いてある船を探すんだ。この手紙を見せればきっと理解してくれる」


「ありがとうございます。それでは」


「あぁ。またな」


「ルイスさん達にもよろしく言っておいてください」


 船長に別れを告げ、ユズル達は渡された紙に書いてあった船を探す。

 島に上陸した頃には既に日は登り、晴天の空が2人の新たな門出を祝っているかのようだった。




 無事船を見つけた2人は乗員に手紙を渡し、船へと乗船する。

 ここから長い船旅が始まる。

 出発までまだ時間があるとの事で、二人は港町を散策することにした。


「なんだがフォーラ村を思い出しますね」


「確かにあそこも港町だったもんなぁ。……なんか色々ありすぎて、昔のことのように感じるな……」


「ほんと、色々ありましたよね」


 初めはフォーラ村に行くためだけに村を出たつもりが、気がつけば大陸すらも離れてしまった。

 魔人を討伐し、魔女を救い、竜王と手を組み、王都での戦争に勝ち、そしてあの魔王との邂逅も果たした。

 これだけで一生分の経験値は得られたに違いない。


「見てください、これ」


「ん……?」


 ユリカが指差す方向には何やらカラフルな装飾品が飾られた出店があった。


「宝石とはまた違う、ガラスのような……」


「それはシーグラスって言うんだ」 


 店員が顔を覗かせユズルに話しかける。

 話によればシーグラスとは、海岸や大きな湖の湖畔で見付かるガラス片のことらしく、波に揉まれて角の取れたもののことを言うらしい。


「すみません、これを……」


「はいよ」


 ユズルが当たりを物色している間にユリカが何かを買い取る。

 何か惹かれるものでもあったのだろうか?


「言ってくれれば買ったのに……」


「いいんです。ユズルさん、少し後ろ向いてください」


「え?」


 とりあえず言われるがまま背中を向けると首筋に何かがかけられる。

 そっと視線を落とすと、そこには蒼く光るシーグラスが。


「これって……」


「おそろい、ですね」


 そう言ってユリカは胸元から自身のペンダントを取り出す。

 それはユズルが竜の渓谷でユリカにプレゼントしたあのペンダントだった。

 ユリカの目と同じ蒼色の宝石達が、朝日に照らされてより一層輝いていた。




 その後港町を一周した二人は船内に戻り出航のときを待った。

 そして遂に──、


「出航──ッ!!!」


 船長の掛け声と共に船が動き出す。

 先程までいた島がみるみる小さくなっていく。


「いよいよ、ですね」


「……そうだな」


 ここから先、二人にとっては未知の世界が広がっている。

 西と東。

 当たり前が通用しない世界。




 頼れるものは、仲間(ユリカ・ユズル)しかいない。




 第6章 英雄の凱旋編 開幕──。

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