第70話 煌牙絢爛
「はぁ……はぁ……」
震える脇腹を抑えながら、壁に突き刺さった聖剣を抜き取る。
依然として大佐は地面に伏せたまま動く気配はない。
(まだだ……まだ安心できる状況じゃない……)
壁にもたれながら大佐の方を見る。
(戦ってて、気づいたことがある……)
ユズルはこの戦いの中で、とある事が引っかかっていた。
それは、「お互い技を繰り出す段階で中心に隙間が生まれる」ということだった。
言い換えれば、「技同士が接触することがなかった」ということだ。
これが何を意味するのか。
ユズルは一つの仮説に辿り着いていた。
(これはあくまで俺の考察だが……おそらくこの間は意図して作られていた)
ただ意図して作ったのは大佐でもユズルでもない。
これは恐らく、ローレンスが作った間だと思われる。
(そしてこの間は……)
ユズルが両手を前に突き出す。
その手には、二双の剣が握られている。
そうローレンス式抜刀術は、
「二刀流をも想定して作られているんじゃないか……?」
改めて声にすると、ローレンスという男の技量に鳥肌が立つ。
だが、もしそうだとしたら……
「……やってみる価値は、ある」
「……いてぇな」
大佐が頭を擦りながらふらふらと立ち上がった。
この様子を見ると、すぐにでも次の手が飛んで来ると思われる。
ならば、"こちらから仕掛けるのみ"。
「ローレンス式抜刀術──」
呼吸を整え、両腕に力を込める。
繰り出す技は、もう決めていた。
「──壱の型×陸の型!」
リアとマコトの復讐を果たしたあの洞窟で、暴龍を倒した師弟の連携技。
それを今ユズルは一人で体現しているのだ。
(師匠、いつかあなたを超えてみせます)
足が軽い。
まるで雲の上を歩くかのような足取りで、大佐の体に迫る。
「……見事」
大佐がそう発した刹那、ユズルの剣先が間合いへと入る。
そして──、
「──煌牙絢爛!!!」
煌龍と煌牙を合わせた合体技。
光り輝く牙は、大佐の身体を引き裂いたのだった。
「どうした聖王よ。天を仰ぐような真似をして」
「……竜王、もうお前が戦う理由は無くなったぞ」
王城地下一階。
時間稼ぎのために戦っていた聖王と竜王は、攻める手を止めた。
「決着が、着いたのか?」
「……あぁ」
どちらが制したのか、聖王の表情を見れば一目瞭然だった。
「……勝ったんだな、ユズル少年」
竜化を解きその場に座り込む。
と、その時背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「………やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ドォォォォォォォォン!!
「竜王様に触れるなァ!!!」
壁を突き破り現れたのは、ミカエラであった。
「まて、ミカエラ。もう終わったんだ」
「……え、急に止まれな──」
「審判の大鏡」
咄嗟に聖王が障壁を築き身を守る。
あくまで身を守る為であり、反撃しようとする素振りは見せなかった。
「終わったってことは……勝ったんですね?」
「……あぁ」
それを聞いたミカエラは「よかった……」とこぼし肩の力を抜いた。
「ん?そういえば竜王様、何故ここに……?」
冷静になって気づいたが、何故ここに竜王がいるのだろうか?
「……今の聖王がどんな人間か、確認しておきたかっただけだ」
そう言って立ち上がり聖王に背を向ける。
「行くぞミカエラ。もう用はない」
竜王に手を引かれ、ミカエラは聖王の元を後にした。
呪術師と呪術師、聖王と竜王、ボップと管理者、そしてユズルと大佐。
この時をもって、全ての戦いが幕を閉じた。
残すはユリカの救出のみ──。
ついに王都反乱編クライマックス──!!!