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第69話 拾弐の型



(今の音……)


 王城6階層、儀式の間。

 未だ棺に囚われたままの少女ユリカは、聞き覚えのある音で目を覚ます。

 あの男の使う剣技と、その愛剣が舞う音。

 この数ヶ月、誰よりも近くでその音を聞いてきた。


(……どのくらい寝てたんですかね……)


 まるで力を抜かれているような感覚が、ユリカを深い睡眠へと誘っていた。



「──俺だって……望んでこんな姿になったわけじゃねぇ……!」



 どこからともなくあの男の声が聞こえ、ユリカは身体を震わす。

 間違い無い。間違えるわけが無い。


(ここまで来てるってことは、もしかしてもう大佐(グランドゼーブ)と……)


 辺りに大佐の姿がないところを見ると、おそらくさっきの音はユズルと大佐が激突した音で間違いないだろう。



「──ユリカだって、望んでああなったわけじゃねぇ……!」



「……っ!」


 ユズルの発したその言葉を聞いて、ユリカは酷く顔を崩した。

 熱い涙が頬を伝う。



「──俺はこの場でお前を討つ!!!!」



「ユズルさん……どうか……」


 無事でいて。

 もし願いが叶うのならば、もう一度、彼と──。




「ローレンス式抜刀術弐の型 旋風!」


 相変わらずの速さに、ユズルの体は反応しきれそうにない。

 だがもう避ける必要はなかった。


(この侵食のおかげであいつの攻撃を受けてもダメージを受けることはなくなった。まだ侵食が浅い右側の首筋か、足先を狙われない限りは大丈夫なはず……っ!)


 ユズルの引こうとしない姿勢を見た大佐は、さらに攻撃の手を強める。


(流石にこのままだとまずいな、攻められない……!)


 大佐の攻撃を攻略し優勢に立ったと思われたが、攻めに転じることが出来ず膠着状態が続くこととなった。


(下手に動くな、相手が隙を見せるのを待つんだ……っ)


 ユズルは必死に耐えた。

 隙が生まれる、その瞬間を。


 だが、隙をつかれたのはユズルの方だった。


「っ、しまっ──」 


 ユズルの手からなにかが離れる。

 それが聖剣(シュバルツ)だと、言うまでもないだろう。


「貴様、ずっと剣で首筋を隠してたな?」


(っ?!まずい、バレて──っ)


「これで終わりだ、醜い悪魔め」


「──っ」


 大佐の剣がユズルの首筋を捉える。

 だが首筋に剣先が当たる瞬間、何かがその間に割って入ったのを大佐は見逃さなかった。


「──いつから俺の武器が、あの(シュバルツ)だけだと錯覚していた?」


「……2本目を、隠していたのか……っ!」


 その異物の正体、それはユズルがベルゼブブ討伐戦の際にフォーラ村の武器屋に作って貰ったあの剣だった。

 ユズルはあの時の剣を、ずっと持ち続けていたのだ。


「隙を生んだのは、お前の方だったな」


 ユズルは剣に力を込める。

 その刹那、身体中から黒い(もや)のようなものが溢れ出し、全身を包み込んだ。


「ローレンス式抜刀術 拾弐の型──」


 その靄はまるで炎のように黒く燃え上がり、侵食された眼球からは黒い稲妻が走った。


「──黒龍!」


 真正面からの一撃。


 黒い閃光は、確実に大佐を捉えたのだった。

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