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第66話 風と光



 爆発音が鳴り響き、建物が大きく揺れる。

 王城の五階層。

 今下で何が起こっているかは分からない。

 だが、そんなことを気にしてる余裕はなかった。


「君は彼女(ユリカ)について、どれほど知っている?」


「……」


 答えるつもりは無い、という訳では無い。

 何も知らないから言葉が出てこないのだ。

 果たして俺は、ユリカという人間の何を知っているのだろうか。

 笑った顔が可愛いだとか、回復魔法が得意だとか、まるで上辺だけしか見ていない。

 もっとユリカという人物の根本、言ってしまえば彼女自身について俺は何を知っているのだろうか。


「沈黙は、あまり好かないな」


「……っ」


 「俺だって好きで黙ってるわけじゃない」、そう言えればどんなに楽だろうか。

 だけどその一言すら出てこない俺は、どんだけ情弱者なんだ。

 心底怒りが湧いてくる、自分自身にも、目の前にいる大佐(グランドゼーブ)とやらにも。


「君がどんな気持ちでここにいるか、私には分からない。だけど引き返すことをおすすめするよ」


「……何故だ?」


「そりゃ、君では私に勝てないからだよ」


「そんなの、やって見なきゃ分からないだろ!」


「"知らない"の4文字も発せない弱者に、私が負けるとでも?」


「それでもッ!」


 ユズルは(シュバルツ)を構える。

 その刹那、鍔から剣先へと白い光が伝い、聖剣と言われるが故の姿へと変貌を遂げる。


「俺は二度と、大切な人を失ったりしない!」


「その剣、そうか……面白い!」


 大佐(グランドゼーブ)が帯刀し、剣を軸にして周辺に風が渦巻く。

 その威力、ユズルが普段使う「旋風」と同レベル、いやそれ以上。

 足裏を地面から突き放し、双方の剣が交わる。


「ローレンス式抜刀術 壱の型 煌龍!」


「ローレンス式抜刀術 漆の型 櫛風!」


 互いに英雄ローレンスの剣技を繰り出す。

 光と風の一撃。

 

 押されているのはユズルの方だった。


(流石に1体1じゃ勝てる相手じゃねぇ!)


 衝撃で弾き飛ばされ天井近くまで張飛する。

 が、大佐はその後にぴったりとくっつき、さらに追い打ちをかける。


「ローレンス式抜刀術 弐の型 旋風!」


(避けれねぇ!)


 必死に受身を取るが、その場しのぎにしかならないことはユズルもわかっていた。

 崩れ落ちる天井と砂埃を盾に大佐と距離をとる。

 だが、


「──ローレンス式抜刀術 拾の型 烈風!」


「がは──ッ」


 視界が晴れないうちに飛んできた一撃。

 それはユズルの脇腹を掠めてはるか後方へと抜けていった。


(息を着く暇もねぇ……)


 そのまま地面に叩きつけられ背中を強打する。

 それが起因して呼吸が乱れ、その隙に大佐が距離を詰める。


「ローレンス式抜刀術 漆の型 櫛風!」


 ユズルの体を分断するかのように振り下ろされた一振。

 

 ……ユズルの体は動かなかった。


 地面が割れ、辺り一体に血飛沫が飛び散る。

 恐らくユズルの体が分断されたからだろう。


「……大したこと無かったな」


 そう吐き捨て、大佐はユズルの元を離れる。

 今この時を持って、ユズルという男の(めい)は終わりを告げた。




 ……はずだった。

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