第64話 前進せよ
「竜王の拳骨!」
「審判の壁」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
竜王の拳が障壁によって防がれ、分散された力が辺り一体に大きな揺れを引き起こす。
地下ゆえ、崩れたらたとえ竜王とて生き延びることは不可能に近い。
それでも尚攻撃の手を緩めることなく竜王は攻撃を続ける。
その拳は、この戦いが終わるまで、ユズルがユリカを奪還するまで振り続けられる。
そう、竜王は今時間を稼ぐためだけに戦っている。
ミカエラに自身の力を分け与えた為、長期的な戦闘は避けたかったのだが……
(私が来た時はまだ、一階層の制圧すらできていなかった。ユズル青年があの男を凌ぐのに、あとどれほど時間を要するのか……)
「お前さんが時間稼ぎの為に戦っているのは分かっている。だがそれは全くもって無意味だ」
「……なんだと?」
「時間を稼いだところで、誰もグランドゼーブは倒せない。奇跡でも起きない限り、な」
「……その奇跡が今起きずにいつ起きる?」
竜王の体が肥大化し始め、可愛らしい少女の姿が恐ろしい竜の姿へと変化していく。
「私はあの青年を信じる。彼ならきっと……」
「何故そう思う?」
「──彼があの"英雄"の血を引くものだからだ」
声が消えると同時に竜王が咆哮し、激しく地面が揺れる。
天井からパラパラと破片が降り、巻き上がった煙で視界は遮られた。
「審判の穹」
「竜王の咆哮!」
槍の雨と炎の息吹、まるでおとぎ話のような光景だった。
竜は怒り、王は舞う。
その戦いの行方は、誰にも分からない。
「まだ敵が居ないか確認しろ!」
王城一階層。
帝国の女騎士 ルイスは兵士たちに指示を仰いでいた。
「西側にはもういません!」
「東側も同様、制圧が完了しました!」
続々とルイスの元に、分隊長らしい人物が集まり出す。
「北側、制圧完了です!」
「これで最後か……」
ルイスは全部隊が集合したことを確認し、2階層へと進軍を開始した。
(ユズル君は無事グランドゼーブの元にたどり着けただろうか?)
不安を振り払い、前へ前へと足を運ばせる。
ミカエラがカトルと戦っている、
竜王と聖王が戦っている、
ボップとエリカが戦っている、
そして、ユズルとグランドゼーブが戦っている。
そして、それはルイス達帝国兵も同じ。
同じ時、同じ場所で同じ目的を持って戦っている。
我々は、決して1人じゃない──。
「──総員、前進せよ!!!!!」