第61話 呪術師vs呪術師(上)
「……本当にあったのね」
王城一階、西エリア。
同行していた帝国兵の援助を得てミカエラは、ある扉の前へと足を運んでいた。
その扉を開けると、地下へと続く階段が姿を現す。
(この先に悪魔の心臓があるはず……)
ギギッーっと音を立てて扉が閉まり、ミカエラは真っ暗な階段をゆっくりと降りて行く。
最後の一段を降り切り、手に炎を纏って当たりを照らすとまたしても扉がひとつ、開けてくれと言わんばかりの取り付けに警戒心が揺らぐが、今は先を進む他ない。
扉を押し入り中に入ると、そこはまるで実験室のようで……、
「……ん?誰ー?」
どこからともなく声が聞こえ、ミカエラは身構える。
視線の先には光を放つ無数のポッドが点在し、天井には四方に管が張り巡らされていた。
その隙間をかき分け声の主を探るが、
「あっ、この前のお姉さんだ!」
「……っ?!」
突然背後から声が聞こえミカエラは振り返る。
そこには──、
「あなた……っ、この前のっ!」
ミカエラの視線の先には、襲撃時ミカエラを瀕死に追いやった例の少年が立っていた。
(この子、毎回どうやって……っ)
「お姉さんに構ってる暇は無いんだけどなー。そうだ!」
「……っ!」
ミカエラは突然目眩を感じ地面に膝を着く。
「また眠っててよ。おやすみっ」
少年は笑いながらミカエラに背を向ける。
だが、
「──悪いけど、もうその手には乗らないわよ!」
「え──」
ミカエラの拳が少年に命中し、激しい爆風が巻き起こる。
その反動で近くに立てられていたポッドが数本破裂し、中を満たしていた液体が地面に溢れ出した。
「……ははっ、お姉さん面白いね」
「……この一撃をくらっても、笑えるとはね」
自分の顔がひきつるのを感じた。
普通の人間が竜人の拳をくらっても尚無事なんてこと普通はありえない。
やはり目の前の少年はただものでは無い、そう考えざるを得なかった。
「お姉さん名前はなんて言うのー?」
「……ミカエラよ。貴方は?」
「俺っちの名はカトルだよ。よろしくね」
カトルと名乗る少年とミカエラの、呪術師対呪術師の戦いが幕を開けた。
──同時刻 王城 東エリア 地下二階
「……やはり来たか」
小さな足音、それに少し遅れて何かを引きずる音が広い空間に響き渡る。
「…………レオン……」
謎の刺客は立ち止まると、壁に立てかけられた棺を見た。
その棺の中には、かつての聖王レオンの姿が今も尚保存されている。
そしてその真下、まるで棺を守るかのように立っている男こそ現聖王 レオポルトである。
「そろそろ来る頃だとは思っていたが……まさか自ら姿を現すとは」
「……悪魔を呼んでどうするつもりだ」
「レオンを生き返らせる。喜べ、お前の友人が帰ってくるのだぞ?」
「そんなこと、私もレオンも望んでない」
身体から発される炎によって、辺りの暗闇が紅く照らされる。
その姿を見て、レオポルトも眼を光らせる。
「かつて聖王の友人だったお前が、まさか聖王に牙を剥くとはな」
「レオンとお前は別人だ。私は聖王だから彼に協力したんじゃない、レオンだから協力したんだ」
その言葉を聞いてレオポルトは「そうか……」と声を漏らすと、首を軽く振り剣を抜いた。
「それでは始めようか。竜王 リントヴルムよ」
王城地下。
聖王と竜王の戦いが今、始まった──。