第60話 作戦開始
「お母さん、あれなぁに?」
「んー?どぉれ?」
小さな指が示す方向には、青空が広がっていた。
その青空を覆い隠すように、覆面の兵士が王城目指して一斉に飛び立つ。
「──作戦、開始!」
暖かな陽気に包まれた日曜日の昼下がり。
平穏な王都が、一瞬にして戦場へと化す。
「正門を抜けたら恐らく護衛兵とぶつかる!我々が時間を稼ぐので、ユズルは先を急いでくれ!」
「っ、分かりました!」
突如として始まった戦闘は、町全体を巻き込んだ大規模なものだった。
四方八方から覆面の兵士が飛び出し、逃げ惑う人々で王都内は大混乱に包まれる。
そんなことには目もくれずに王城を目指す帝国軍、及びユズルは既に町の中心部へと足を運ばせていた。
ユズルはルイスを含めた六人の帝国兵と行動を共にしているが、王城に侵入後は別行動を強いられる。
現在の戦況は帝国軍が圧倒的に押していた。
というのもいきなりの奇襲だったせいか未だに大きな戦闘は怒っておらず、早いところでは既に王城内へと侵入している所もで始めたまでだ。
だがユズルはあることがずっと引っかかっていた。
それは、王城の結界は機械によって維持されているということだった。
余りに無防備すぎる故、裏があるのでは無いかと考えてしまう。
(だがここまで戦況を揺るがす程の災害は出ていない。ただの考えすぎだったか?)
そうこうしているうちに無事正門を突破し、場内へと侵入する。
「辺りを警戒しろ!もうここは敵の懐の中だ!油断すれば死ぬと思え!」
「「「「「は!」」」」」
上へとつながる道を見つけ、一同は走り出す。
だが、その影から複数の王都兵が姿を現した。
「さっき伝えた通り、ここは私達が食い止める。君はさきを急いでくれ!」
「っ、すみません!ありがとうございます!」
「はぁ!蒼天の槍!」
ユズルは上へ上へと先を急ぐ。
目指すは六階層儀式の間。
「ユリカ、無事でいてくれ!」
階段を駆け上がり、2階層に出たところで再び王都兵と接触する。
ユズルは足を止め、剣を構えるが──、
「──巨大斧ッ!」
敵の背後から何者かが現れ、王都軍は背後に視線を向ける。
「少年、先を急げ!ここは俺たちに任せな!」
「っ、ありがとうございます!」
またしても帝国軍の者に救われ、ユズル再び階段を駆け上がる。帝国軍と同盟交渉に出たのは正解だったと拳を強く握った。
「はぁ、はぁ、ここが3階層か?」
当たりを見渡すと、既に襲撃の後があった。
恐らく先に入城した帝国兵がやったのだろう。
ちなみに上に上がるための道はここを含め25箇所ある。
「この先は確か……」
階段を駆け上がりながら、城内の地図を思い出す。
この先の四階層には、聖王の謁見の間がある。そしてその上が……。
「……グランドゼーブのいる部屋、か」
大佐の名を口に出すだけで体が震える。
あれほどの実力者を、果たして自分は仕留めることが出来るのだろうか?
「……できる出来ないじゃないだろ」
まるで自分に言い聞かせるかのように、次々と言葉が口からこぼれる。
「やるんだ、今日、ここで!」
強く、強く、一歩を踏み出し階段を突き進む。
そして遂に──、
「よく来たね、少年」
五階層、王都軍最高司令官の間──。
「……やっと会えたな」
額から汗がこぼれ出し、全身の感覚が研ぎ澄まされる。
息を大きく吸い、ユズルは足を踏み入れた。
「大佐、グランドゼーブ!」
──同時刻、王都
「なんだなんだ?戦争か?」
逃げ惑う人々の波を受け流し、男は王城を見つめて立ち尽くす。その手には王都の名物、馬の肉棒が握られていた。
「いいチャンスだ、俺も参加させてもらおう」
男は串を店前のゴミ箱に捨てると、王城目指して走り出した。
その顔には、古傷が一つ。
「──魔導書は返してもらうぞ。あれがなきゃ、村のみんなが困るんでな」