第59話 王都vs帝国
迎えた翌朝、情報を伝える早馬が入りルイスは眉をひそめた。その手紙には、こう記されていたのだ。
"悪魔の心臓は王城地下の棺の間に移された。魔導書は未だ手がかりなし。恐らく聖王の側近である魔導師が保管していると思われる。結界を守る機械に異常なし。また、王都軍の遠征等の話は出ていない。例の少女は王城6階に位置する儀式の間に居る。そして、その儀式の間の真下には──"
「……大佐 グランドゼーブ……ッ」
"──大佐 グランドゼーブ、及び王都軍最高司令官の拠点としている部屋あり。関係者すら立ち入り出来ず"
そう記されていた。
受け取った情報をユズル達に話した所、ユズルは大きく反応を示した。
だが、拳を握ると真剣な眼差しで
「俺が、グランドゼーブを倒します」
そう答えたのだった。
その後一般兵が王都への侵入を開始し、ユズル達を含めた上官は今後の作戦について再度確認の話し合いを進めていた。
「我々帝国軍上官達は引き続き魔導書の捜索に当たろう。そして彼女が悪魔の心臓の奪還にあたる。そして、グランドゼーブは彼に頼むことになった」
ルイスが上官達に説明し、全員がうなづいた。
そしてそのうちの一人が手を上げる。
「グランドゼーブを倒すと言っていたが、恐らく奴はお前が思っているほど楽な相手じゃない」
「……グランドゼーブの強さについては、自分も重々承知です」
「そうか、じゃあ作戦は?」
「……正面から戦っても勝てないのは分かっています。なので、隙をついてユリカを……」
「奴が隙を見せると思うか?」
「……っ」
「もしユリカとやらを助けたいなら、奴を行動不能に追い込むしかない。問題はどうやって奴をそこまで追い込むか、だ。意外と答えは簡単だ」
男は持参した収納ケースから幾つかの道具を取りだし、机に並べる。そのほとんどが、狩りの際に使われる道具達であった。
「まず、奴の魔法を封じる必要がある。あれがある以上、こちら側に勝ち目はない。そしたら次は武器を奪う。その隙にこの道具を使って奴の動きを封じる」
男が手に取ったのは、ネット状の罠だった。
あの魔獣でさえ使われたらしばらく身動きが出来ないと評判の強力な罠だ。
「だがこれだけやっても、恐らく生まれる隙は10秒が限界だと思う。そこから先はお前さんの力量次第だ」
「……(ゴクッ)」
唾を飲み込むだけで喉が痛むほどの緊張感が、ユズルを襲った。
竜の渓谷、及び先日の王都での戦闘を目の当たりにしたユズルにとってこの作戦はあまりにも無謀なものに思えた。
だが、そんなことはどうでもよかった。
例えどんなに厳しい試練が待ち受けようとも、彼女が救えるのなら関係ない。
「それじゃあ我々も移動しようか。決戦の地、王都へと──」