表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/186

第55話 新たな夜明け



「ん……」


 すごく寒い。

 あまりの寒さにユズルは目を覚ました。

 そして目を開けるなり、その場から勢いよく立ち上がる。


「ユリカッ!」


 当たりを見渡すが、ユリカの姿はない。

 あるのは壁に空いた大きな穴と、部屋の端で座り込むミカエラの姿だけだった。


「……くそっ!…………くそぉぉぉぉ!」


 痛む頭を顧みずに、ユズルは力強く地面を殴る。

 そっと首筋に触れると、注射痕のようなものを見つけた。

 やはり昨日のことは夢ではなかったのだと、確信せざるを得なかった。



 昨夜、大佐(アウラングゼーブ)の襲撃を受けたユズル達一行は、ユリカの拉致を許してしまった。

 抵抗しなかった訳では決して無い、出来なかったのだ。

 連れ去られる直前に告げられたユリカの正体。


"彼女は悪魔と聖女の子だ"


 ユリカが悪魔の子だなんて、今まで一度も考えたことがなかった。それもそのはず、ユリカからは一切の違和感を感じなかったからだ。一体誰がユリカが忌み子だと分かるだろう?


 混乱する中、王都兵は必死にもがくユズルの首筋に一本の注射を打ち込んだ。

 中身は不明だが、ユリカが連れ去られたあとからの記憶がないことを考えると、恐らく睡眠薬だと思われる。

 そして今に至るというわけだ。



「……さっき宿主が来て、壁代は王都兵から受けとったから貴方達は昼までにここを出なさい、って」


「……そうか」


 元気の無い声で、ミカエラがそう告げる。

 正直、これからどうすればいいのか分からなかった。

 もちろんユリカは必ず取り返す、たとえこの身が果てようとも。

 しかし悪魔の心臓すら見つけられなかったユズル達に、果たしてユリカは見つけられるのだろうか?


「……ぐずぐずしてても仕方ないよな」


 きっと今誰よりも不安なのはユリカのはずだ。

 一刻も早く助け出してあげたい、その一心でユズルは立ち上がる。


「とりあえずここを出よう」


 ミカエラの手を引き、ユズル達は宿屋を後にした。




──同時刻 王城 ?階


(……ここは?)


 眠りから覚めたユリカは当たりを確認しようと状態を起こそうとする。

 しかし一向に体が動く気配はない。


「……なんですか、これ」


 手足には無数の拘束具が取り付けられており、自身の意思では動けないようになっていた。

 さらに視線をあげると、四方八方から伸びた管が自分の体へと集まっているのが確認できた。

 まるで自分を取り込もうとしているかのような光景に、ユリカの呼吸が乱れる。

 未知の光景に、ユリカの心には恐怖の感情が渦巻いていた。


「やぁ、起きたかね?」


「っ?!」


 どこからともなく声が聞こえ、ユリカは体を震わせた。

 その声の主は他でもない、大佐(アウラングゼーブ)本人だった。

 大佐はユリカの顔の前まで歩いてくるとそっと笑いかけ、ゆっくりと去っていった。

 足音の感じからして、おそらく自分がいるところは階段をあがった先だということがわかった。

 だがそれだけだ。

 大佐はなんの説明もなしに笑ったかと思うと無言のまま去っていった。

 その行動が、ユリカの恐怖心を一層駆り立てることとなった。


(ユズルさん……)


「…………助けて……っ」 


 その声は誰にも届くことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ