第52話-3 戴冠式
迎えた戴冠式の朝。
可憐なドレスに身を包んだイサベルは、親族に挨拶を済ませ式が始まるのを静かに待った。
(悪魔さん……)
イサベルは頭を横に振る。
(これが、本来の私。彼のことはもう、忘れなきゃ……)
この三日間、イサベルは悪魔の元を訪れず、自分を見つめ直した。一時の気の迷いで周りに迷惑をかける訳には行かない。
(私が王族じゃなかったら、今頃……)
「……ベル、……イサベル、式が始まるぞ」
父に肩を揺すられ、意識を現実へと戻す。
……しっかりしなくては。
ここを乗り越えればきっと、悪魔の事も忘れられるはず。
「王女 イサベル・エルミナス様の御入場!」
扉が開き、一同が平伏す。
奥には教皇が冠を持ってこちらを見ていた。
その前に立ち、神父が戴冠の儀を取り仕切る。
「……イサベル・エルミナスを第六代聖王に命ずる」
教皇がそう宣言し、冠がイサベルの頭へと降ろされる。
冠と髪が触れた、その瞬間だった。
──ドォオォォォォォォォン!
「なっ、なんだ!」
広間が砂埃に包まれ、慌ただしく動揺する声だけが響き渡る。
「一体何が……」
視界が晴れ、壁の大穴が明らかとなる。
その時だった。
誰かの手が、イサベルの肩に触れた。
「──いつまで待たせてんだ」
「悪魔、さん?」
そこには、悪魔の姿があった。
「っ!悪魔の襲撃だ!」
すぐさま護衛兵が集い、悪魔に向けて武器を構える。
「ちっ、さっさと行くぞ」
悪魔はイサベルの体を抱き寄せる。
だが、
「……私はここに残ります」
「……あ?」
予想外の発言に、悪魔は眉を寄せる。
「私は王位を継ぎます。なので、一緒には行けません」
「……話が違うじゃねぇか」
イサベルは悪魔から顔を逸らす。
しかし悪魔には、それがただの強がりだと言うことがすぐにわかった。
「お前はどうしたいんだよ?」
「イサベル様!その男から離れてください!」
「私は──っ」
不意に肩を引き寄せられたかと思うと次の瞬間、唇を塞がれたイサベルは目を見開いた。
「撃て──!」
ドドドドドドドドド──ッ!
巻き上がる煙幕の中、悪魔はイサベルからそっと唇を離す。
「これでもまだ、抵抗する気か?」
「あぅ……」
初めての口付けにイサベルは耳まで真っ赤に染る。
その反応を見て、悪魔はくすっと笑ったかと思うと、
「それじゃあこいつは貰っていくんで」
「ま、待て!」
飛び去ろうとする悪魔目掛けて護衛兵が立て続けに攻撃を仕掛けるが、そんなものは悪魔相手には通じない。
「……甘ぇな」
悪魔は唇を軽く舐め、王城を後にするのだった。