第51話 忌み子
悲劇は突如として起こった。
帝国軍の襲撃から二日がたった日の夜。
地響きと共に、ユズルは誰かの叫び声で目を覚ました。
「──ルさん!」
(……ユリカ?)
目覚めたばかりで上手く聞き取れない。
眠い目を擦り、声がする方を見たその瞬間、ユズルの全身に寒気が走った。
「──っ、ユリカッ!」
勢いよく立ち上がろうとするユズルを、何者かが抑え込む。
突然の事で受身が取れず、息が詰まる。
「誰だッ?!」
後ろを振り返り、ユズルは絶句した。
そこに居たのは、確認できるだけで計七名の王都兵達であった。
(なんで王都兵がここに……っ)
当たりを確認すると、ユズルと同じように捉えられたミカエラさんの姿が確認できた。
そして顔を上げるとそこには、何者かに抱き抱えられたユリカの姿が──。
……嫌な予感が全身を走った。
恐る恐る顔を上げ、ユリカを抱き抱えている男の顔を確認する。
……悪い予感は、見事的中した。
「グランドゼーブ……っ!」
「……?私の名前を知っているのか?」
大佐は首を傾げる。
その横ではユリカが目に薄ら涙を浮かべながら、こちらを見ていた。
「君と私は面識は無いはずだが……」
向こうがユズルを知らないのも仕方がない、実際直接的に大佐と接触した場面は一度もないのだから。
これが初めての顔合わせなのだ。
「まぁいい。お前たちこいつらを抑えておけ」
「「「はっ!」」」
そう指示した後、大佐はこの場を去ろうと背を向ける。
「──っ、ユズルさん!」
「ユリカッ!」
追いかけようとするユズルを、王都兵は3人がかりで抑え込む。
「離せぇぇぇぇえええ!」
力ずくで解こうとするユズル。
右手が抜け、王都兵目掛けて拳を振り下ろしたその時だった。
「ちなみに王都軍に手を出せば……分かるよな?」
ユリカの首元に当てられた刃物を見て、ユズルの手が止まる。その隙に王都兵は再びユズルの手を拘束した。
「何が目的なんだ!」
去りゆく大佐の背中にそう叫ぶ。
その声に、大佐は足を止め振り返り、
「忌み子の血が必要なんだ」
「……忌み子って、どういうことだ?」
確かにユリカには、聖王家の血が流れているかもしれないという疑惑が浮上している。
しかしそれだけで忌み子とは言い難い。
「まさか知らないで一緒に旅してたのか?」
大佐は額に手を当て、高らかに笑う。
「いいだろう。この際教えてやる、こいつの正体を」
大佐は横にいた兵にユリカを預け、ユズルの顎を掴む。
そして──、
「彼女は王家と悪魔の子供だ」
そう告げたのだった。




