第50話 進撃する帝国軍
突如として始まった戦闘は激化し、人々に避難指示が出された。
しかしこれが初めてのことでは無いようで、逃げる人々の足取りは慣れたものだった。
その間にユズル達一行は、戦闘が激化する方へと足を運ばせていた。
理由はただ一つ。
この混乱に乗じて、王都軍と接触するためであった。
(出来れば大佐がどこにいるのか確認したい)
帝国軍の襲撃は、ユズル達にとって好都合だった。
(もし帝国軍が王城まで達すれば、王城内に潜入も出来るかもしれない)
物陰にかくれながら、互いの動向を探る。
依然として帝国軍側が押しており、王城が落とされるのも時間の問題だった。
……奴が現れるまでは。
「……やはり来たか」
ユズルたちの目線の先、王城の尖塔から一閃の風が放たれる。たった一振で帝国軍の進行は止まり、戦況が逆転する。
王都軍 大佐 グランドゼーブの姿が、そこにはあった。
大佐は帝国軍に向けて立て続けに剣を振り続ける。すると帝国軍が東西に分離し、大佐の攻撃を避けながら再び進撃を開始した。
それを追うかのようにユズル達が角を曲がったその時だった。
「っ……!誰か倒れてる?!」
道の真ん中で倒れている人を発見する。
周りには血溜まりができており、重度の怪我人だと思われた。
回復術士であるユリカが怪我人を放っておく訳もなく、近づいて顔色を確認する。
男にしては少し長い、ショートカットの青少年のようだった。
「脈が浅い……癒しの光」
ユリカが回復魔法を発動し、怪我人の体が癒え始める。
「お前ら!そこで何してるんだ!」
(しまった、王都軍か!)
怪我人の方に気が取られ、接近に気づけなかった。
「見て分からないのか!そいつは帝国軍の人間だぞ!」
「……っ、自分たちは旅人なので知りませんでした!ただ怪我人がいたから……」
「たとえ旅人だろうと、民間人が帝国軍に手を出すことは禁止されている!捕まりたくなければ今すぐその手を離せ!」
ユリカの方を振り向くと、王都軍の声に一切耳を貸さず治療に集中していた。
その姿を見て、ユズルとミカエラは体勢を王都軍へと向ける。
「なんだ貴様ら、王都軍に歯向かうのか?!」
王都軍はどいつもこいつも口を開けば「王都軍に逆らうのか」と。
「……その言葉、聞き飽きたんだよ!」
ユズルとミカエラが、王都兵に牙を向ける。
王都軍との交戦は、一瞬で終わりを告げる。
相手が弱い訳では無い。
少しづつだが、確実にユズルが強くなっているのだ。
村を出て実際に魔獣と対峙し、魔法を覚え、仲間を得て、仕舞いには魔人をも倒せるほどに成長した。
その経験が、今のユズルを確立していた。
地面に伏せる王都兵を縛り上げた後、ユリカの方へと歩み寄る。
(この人から何か聞き出せればいいけど……)
「……うぅ」
呻き声が聞こえたかと思うと、帝国兵が目を開ける。
「良かった……」
安堵するユリカ。
その顔を一目見て、帝国兵は目を見開く。
そして次の瞬間、全速力で逃げ出したでは無いか。
「──っ、待ってくれ!俺たちは敵じゃない!」
ユズルが叫ぶが、帝国兵は闇夜に消えてしまった。
まるで「情報を渡すな」と言われているかのような逃げ足の速さに、三人はただ立ち尽くす他なかった。
(また、何の情報も得られなかった……)
王城の方を見ると、既に大佐が帝国軍を撤退まで追い込んでいた。
こうして突如として始まった反乱は、夜明けを待つことなく終わりを告げたのだった。