第49話 新勢力の台頭
「……なるほどね」
ミカエラの元へと帰還した二人は城での出来事を事細かに説明する。
一般開放されている王城の一部は、恐らくダミーであること(理由はまだ不明だが)、そしてユリカが感じた違和感についても話した。
しかしこれといった有力な情報が得られなかった為、話が進むことは無かった。
その後一行は、各自での作業に取り掛かった。
ミカエラは悪魔についての本を読み、ユリカは禁忌魔法の原本解読を進める。
その間にユズルは、今後の展開をノートに書き記していた。
(悪魔の心臓どころか、未だに例の大佐とも会えていない。それにユリカについても謎のままだ……)
王都についてから既に三日が経過しているのにも関わらず、得た情報は「悪魔について」と「一般公開されている王城の内部」の二つだけであった。
このペースでは、悪魔の心臓を見つけ出す前に事が済んでしまうかもしれない。
(王都軍の注意を引いて大佐を誘き寄せるか?……いやダメだ、リスクが大きすぎる。なら思い切って王城に潜入するか?……見つかった時どうする?ここはただの村じゃないんだぞ?)
考えれば考えるほど頭が混乱する。
こんなことなら、竜人全員で王都を襲撃した方が良かったのではないか?
そんな考えさえ頭をよぎった。
結局いい案が浮かぶことなく夜を迎えた。
食事の為に宿を出た一行が向かった先は、素朴な建物に看板が一つ添えられている、小さな居酒屋であった。
居酒屋の扉を開けると、中には店主が一人、グラスを磨きながら鼻歌を歌っていた。
店主はこちらに気がつくと、恥ずかしそうに頭を撫でる。
「いやぁ、失礼失礼。客なんて滅多に来ないものだから……」
店主が三人をカウンターへと誘導する。
確かにユズル達の他に客は見えない。
「客が来るなんて三日ぶりだなぁ。お前さん達も旅人だろ?」
「……その感じだと、三日前も旅人がここに?」
「三日前に限らず、この店に来る客はほとんどが旅人だよ。三日前の客は確か……」
ユズルがグラスに口をつけたその瞬間だった。
店主の発した言葉を聞いて、思わずグラスから口を離す。
「アルバ村から来たって言ってたな」
ユズルは目を見開き、唇を震わせる。
「……アルバ村、だと?」
「どうしたんだい、あんちゃん?」
「いや、アルバ村は俺の……俺たちの故郷なんだ」
ユリカにチラッと視線を向ける。
ユズル同様、やはり驚いているようだ。
「そうなのか、すごい偶然だな!もしかしたら知り合いかもな」
「その人はどんな格好をしていた?」
「格好か……」
店主は腕を組み「確か……」と語り出す。
「見た目は歳の割に筋肉質だったな。髪は薄ら白みがかっていて、腰には剣が掛かってた。あとは……そうだ、目の下に傷があった」
(……間違いない)
これらの特徴から察するに、恐らく三日前にここを訪れた旅人というのは、ユズルの師匠でもありアルバ村の騎士団長でもあるボップのことで間違いないだろう。
ちなみに目の下の傷は、ユズルとの稽古中についたものだ。
(だが、どうして師匠がここに?)
ボップが村を開けたことは、1度として見た事がなかった。
「……ちなみにその人が今どこにいるか知ってるか?」
「さぁ?ただ、"探しものがある"って言ってたな」
王都に来てまで欲しいもの。
果たして捜し物とは一体何なのだろうか?
……悪魔の心臓の件も相まって悪い予感がしてしまう。
絡まる思考回路を解くように、ユズルはグラスに入った水を一気に飲み干した。
(ユズルさんに伝えておかなきゃ……)
ユズルが居酒屋の店主と言葉を交わしている時、ユリカはあることをユズルに伝えようとしていた。
それは"魔人化の術"についてだった。
現在ユズルの侵食は今までの比にならない速さで進行しており、このまま行けば数年と経たずに全身を覆ってしまう程であった。
メイシスに「根源回帰」の禁忌魔法を発動した時、ユズルの侵食はこの魔法では消せないことを知った。
しかし、禁忌魔法の原本を読み進めて行くうちに、ある可能性が浮上してきた。それは、魔人化の術を解除することは出来なくても、進行を遅らせることは出来るかもしれないのだ。
その方法についてユリカは必死に探っていたのだが、先程遂に解読に至ったのだ。
「ご馳走様でした」
「あいよ、お粗末さまでした」
店主に頭を下げ店を出ようとする三人。
(この先何があるか分からないし、今のうちに言っといた方がいい、よね?)
「あの、ユズルさ──」
ユリカがユズルに話しかけたその時だった。
ドォォォォォォォォォォオオオオオン!!!
「……っ、なんだ?!」
突如として破壊音が響き渡り、地面が大きく揺れた。
一行は外を確認するため急いで店を出る。
そこで三人の目に写ったのは──、
「……竜人と人間の次は、人間と人間の争いかよ……」
闇夜の王都に炎が放たれ、当たりを照らす。
その光に照らされて、王都軍と思われる人達が謎の集団と交戦しているのが見えた。それも数人単位ではなく数百人。
全員腕が立つことから、ただの反乱ではないことが見て取れた。
「……また帝国軍か」
様子を見に来た店主が、ユズル達の後ろでそう声を漏らす。
「……彼らは一体何者なんですか?」
店主が頭をかきながら、話し始める。
「隣国のインペリアルって所が、"帝国"を名乗って王都を攻撃しているんだ。ここ最近は襲撃の頻度も増えて、みんな困ってんだ」
王都軍の陰謀。
ユリカの謎。
新勢力、帝国 インペリアルの登場。
そして、ユリカが伝えようとしていた魔人化を遅らせる方法とは。
王都を舞台に展開される物語はまだ、始まったばかりである。