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第48話 空白の歴史



 王都二日目。


 今日も昨日と変わらずお互い探索に出ていた。

 ミカエラ曰く「今日は王城の近くまで行ってみる」との事だった。

 王都軍側の被害もかなり大きいはずだ。

 仮に見つかったとしても、こちらから手を出さない限り追っては来ないだろう。


 一方ユズルも昨日と変わらず大図書館へと足を運んでいた。

 相変わらず規模の大きさに目眩を感じる。


(昨日のうちに絞り込んできた。後は探すだけ……)


 王家の事業をまとめた文書は厳重に保管されているらしく、管理人に話すと奥の部屋へと連れていかれた。 


「……ここは?」


「重要な書物が保管されておる。貸出は不可。破損や窃盗は重罪に値するから丁重に、な」


 そう言い残し、管理人は部屋を後にする。

 ユズルが並んだ本を指でなぞると、薄く埃が舞い上がった。

 注意深く確認しながら歩く。

 そして、お目当ての本の前で足を止めた。


「あった」


 恐る恐る手に取り広げる。

 表紙には"第五十五代聖王 メアリ"と書かれていた。

 ユリカの年齢から逆算すると、一代前の聖王が一番関わりが深いと思われる。


(なんでもいい。行方不明の娘がいるとか、アルバ村と何らかの関係があったとか……っ)


 しかし、その思いは虚しく散ることになる。


「なんだよ、これ……」


 白く染った本を開いたまま、ユズルはしばらく立ち尽くすのだった。




「……ユズルさん?手が止まってますよ?」


「あ、あぁ……」


 時刻は夕刻。

 昨日より早い時間に集合した三人は、宿から少し離れたところにある食事処を訪れていた。


(結局何もわからなかったな……)


 あの後管理人に尋ねたところ「メアリ女王は若くしてこの世を絶たれたので、ほとんど空白となっているのです」と話してくれた。


(これでまた振り出しか……)


 悔しさで食器を握る手が震える。

 それを隠すかのようにユズルは二人に問う。


「……王城の近くはどうだった?」


「警備は殆ど居ない、それどころか城の一般開放さえしてたわ」


「そうなのか……」


 普段は観光地として使われているのだろうか?


(だがそうなると、悪魔の心臓は王城には無いのか……?)


「けど、ユリカちゃんの千里眼は使えないみたい」


「やっぱりそこまで無防備ではないよなぁ」


 薄々気づいてはいたが、やはりそんな簡単なことではないようだ。


「じゃあ明日は王城に行くのか?」


 ユズルは謎の草を口に運ぶ。

 美味いな、この葉っぱ。


「流石に私が入ったら怪しまれるだろうし、行くならユズル達ね」


「そうなるな……行くとしたら早い方がいいよな?」


 二人が頷く。

 話し合いの結果、早速明日王城に行く事になった。

 食事処を出る頃には辺りも暗くなり、街灯で照らされた夜の街は一層美しく見えた。




 迎えた三日目の朝。


 ユズルはユリカを連れ、王城を訪れていた。

 スタンドガラスが特徴的な王城に入ると、一面彫刻が飾られた大きな部屋へと出る。

 窓から差し込む光は角度を変えながら分散し、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「特に変わったところはないですね」


「生活する場というか、美術館みたいだな」


 彫刻が飾られた部屋を出て長い廊下を歩く。

 窓から見える庭園には四季折々の花々が植えられており、一年中その美しさを保つ工夫が施されていた。


「……ここから先は行けないみたいだな」


 廊下を進んだ先にはロープが掛けられており、看板には「立ち入り禁止」の文字がでかでかと書かれていた。


「それにしても、本当に警備が居ないんだな」


「それだけ余裕があるってことなんでしょう」


 今来た道を戻りながら、再度周り注意を払う。


「……っ!」


「ん?どうかしたのか?」


 突然ユリカが身震いをする。

 千里眼に何か写ったのだろうか?


「いえ、なんでもありません。ただ少し視線を感じて」


 ちなみにこの廊下には今、ユズルとユリカの二人しか居ない。

 形はどうであれ、ここは王城。

 下手すれば敵の懐の中である。


「……早くここを出た方が良さそうだな」


 結局何の手がかりも得ることが出来ずに王城を後にするのだった。




「……あれって?」


 向かいの塔から王城を監視していた男が声を漏らす。

 その視線の先にいたのは、若い男女の二人組。

 だが、男が目をつけたのは女の方だった。


「……まさか自分から寄ってくるとは!」


 男は高らかに笑い、勢いよく立ち上がる。

 持っていた双眼鏡は床に叩きつけれ、両目のレンズが弾け飛ぶ。


「聖王様に報告しなければ!やっと見つけたぞ!」


 窓から飛び出し、屋根伝いで聖王の元へと急ぐ男。


「忌み子だ!遂に忌み子の血が手に入るぞ!」


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