第47話 王都一日目
「ここが……」
ユズルは目の前にある建物を見上げる。
今まで通ってきた村では再現不可能な構造をした建物を前に、足が立ちすくむ。
(今更だが、入場制限とかはないよな?)
恐る恐る大図書館へと足を入れる。
だが受付等はなく、入口に入ってすぐに本が立ち並ぶ広間へと出た。
こういう時、言語が統一されていて良かったと心から思う。
「さて、まずは何から調べるかな?」
正直全て見て回ろうとすると、何年かかるか分からない。
何せこの図書館には、億を優に超える数の本が置かれているのだから。
本棚は何十段にも積み重なり、天井からは光が差し込んでいた。頭上の標識だけを頼りに、ユズルは本を探すのだった。
「ユリカちゃん、なんか見えたかしら?」
「いえ、今は何も……」
ユズルと別れてからはや3時間。
途中でお昼ご飯を済ませ、今は王都の中心部を探索中だった。
中心部と言っても完全な真ん中ではなく、中心に聳え立つ王城からは数十キロは離れている。
「やっぱり、王城に近づかないと無理かしら」
「さすがにそれは危険かも、です。それに恐らく王城付近は探索できないと思いますよ」
「え、そうなの?」
ミカエラはキョトンとした顔を作る。
「多分ですが、王城の周りには認識阻害等の結界が貼られていると思われます。情報が漏洩したら大変ですので」
「言われてみれば、確かにそうね」
もう既に認識阻害を受けている可能性は十分に有り得る。
……それを言ってしまえばお終いなのだが。
「……行けるところまで行きましょう」
「そうね」
ユリカとミカエラは早足で王城の方へと向かうのだった。
「はぁー……」
ミカエラが大きなため息を着く。
現在三人は、王都の端にある宿で身を休めていた。
やはり王都の宿は高く、話し合いの結果三人で一部屋を借りることになった。
幸いにもベッドは2つあり、ミカエラさんとユリカには悪いがふたりで寝てもらうこととなった。
「それで、何かわかったか?」
「こっちはなんにも。ユズルは?」
「……俺も悪魔の心臓の在り処は分からなかった。だが、」
ユズルはバッグから、一冊の本を取り出す。
その本の表紙には、「悪魔討伐記」と書かれていた。
「恐らく、竜王が言っていた悪魔はここに書かれている奴のことだと思う」
本には、悪魔が生まれてしまった経緯から悪魔が討伐されるまでの全てが記載されていた。
だが、その本の文末は"聖王レオンによって悪魔は討伐され、跡形もなく消え去った"と記されていた。
「やっぱり悪魔の心臓は秘密事項だったようね」
「他にも何冊か悪魔に関する本を見つけたんだが、悪魔の心臓に関する情報は何も……」
とりあえず悪魔について知るところから始めることにした。
本を読む二人を横目に、ユズルは自分のバックへと目を移す。
そのバッグの中には、まだ二人には知らせていない一冊の本が眠っている。
題名は"王家家系図"。
この本の中から、ユリカの血族に当たるであろう人物を探る予定であった。
(まだユリカが王族だって決まった訳じゃないけどな……)
二人の目には、あたかもユズルが悪魔について調べてきたように見えているが、実際は違うのだ。
それにユズルははっきりさせたかった。
ユリカという人物が、何者なのかを。
キリヒトに「ユリカは王族かもしれない」と告げられたあの日から、ユズルはずっと引っかかっていたことがあった。
それは、あの小さな村に生まれた時からずっと住んでいるのに、村にいた時に一度もユリカと会ったことがないのだ。
違和感はあった。
だが、その違和感の正体に気づけないままあの日(キリヒトに言われた日)を迎えた。
(王都にいるうちに突き止めたいんだ、何としてでも)
こうして王都一日目は、静かに幕を閉じた。