第46話 王都上陸
(また、この夢だ……)
どこまでも広がる真っ暗な闇。
前回同様真っ暗な空間の中に、自ら光を放つ水晶が佇んでいた。
ただ前回と違うところが一つ。
それは、水晶の中に人がいることだった。
「眠ってる、のか?」
水晶に近づき中をのぞき込む。
顔は見えないが、どうやら少女のようだ。
(一体この夢は、なんなんだ……)
「……ルさん!」
誰かが呼んでる気がする。
「…………ズルさん!」
体が揺さぶられ、徐々に意識が覚醒してゆく。
「……ユズルさん!起きてください!」
「……んぁ?」
目を覚ますとそこは見知らぬ天井。
しかし体は絶えず揺さぶられている。
「……地震?」
「違いますよ。今は馬車の中です」
眠い目をこすり、当たりを見渡す。
向かいの席にはミカエラさんが座っていた。
「あ、起きたかしら」
「あ、はい……おはようございます」
いつから眠っていたのだろうか。
少なくても馬車に乗った記憶はない。
それ以前にここはどこなのだろうか?
恐る恐る窓をのぞき込む。
「……どこだ、ここ?」
ユズルの目に飛び込んできたのは、見たこともないような建物の数々であった。
足元が見えないような高い建物もあれば、色彩豊かな住宅街も立ち並んでいた。その奥に、一際目立つ建物が立っている。
「……王都に着いたんだな」
初めて見る建物だが、ユズルははっきりとわかった。あれが王城だと。
「今朝王都について、今は馬車で移動中です」
「以外と早かったな……」
ミカエラさんがいなかったら、恐らく二、三週間はかかっていただろう。
「それで今のうちに今日の動きの確認なのですが、私とミカエラさんが探索に、ユズルさんが情報収集に、の二手に分かれるってことでいいですね?」
「あぁ」「えぇ」
この話し合いは、王都までの移動中に行われた。
まず、ユリカの千里眼で捜索する予定だったが、ユリカを一人にするのは危険と考えた為どちらかが着こうということになった。
しかし、ミカエラさんを一人にすると王都兵に目をつけられる可能性もある。そのためこのような割り振りとなったのだ。
そもそも一緒に行動すればいいだけなのだが、ユズルには「悪魔の心臓」奪還作戦以外の目的があった。
(ユリカの謎を知るチャンスだしな。二人には悪いけど、俺はもう向かう所は決めてんだ)
「そろそろ降りますよ」
ユリカがそう言うと、徐々に馬車の速度が下がり始める。
ちなみに今まで通ってきた村にも馬がいなかった訳では無い。ただこの東の大陸では野生の馬が少なく、西の大陸と頻繁にやり取りを行っている王都に馬が集中しているのだった。
馬車をおり、改めて周りを見渡す。
今までとは規模が違いすぎるため、迷子になったら二度と会えないまであった。
「移動中に窓から確認してましたが、所々に地図が設置されているようですね」
商人や観光客が多く集まるだけあって町の中には、所々に地図が設置されていた。
「……それじゃあここ集合にしましょう」
ユリカが指さしたのは、一際目立つ建物。
外見から見るに、美術館のようだ。
(馬車といい、美術館といい、王都は初めて見るものが多いな……)
二人に別れを告げ、ユズルは王城の方へと歩き出す。
「……目的地は、王都大図書館」
王都での物語が、始まる。
第5章 王都反乱編 開幕──。