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第44話 王都への疑念



「……ミカエラさん?」


「……え……あ、ごめんなさいね」


(まただ……)


 竜王のところに行った後からミカエラさんの様子が少しおかしい。常に考え事をしているかのようだった。


「……何かあったんですか?」


「え、いや、大丈夫よ」


 明らかに大丈夫ではないのは、二人がみても明らかだった。だが、二人の口からは聞いてはいけないのだ。


 何故ならこれは、竜人たちの物語なのだから。

 ユズル達はただ、見守っているしかなかった。


「そういえばユズル達ってずっとここにいるわけじゃないんでしょ?」


「あー、その事なんですが……」


 当初の予定では、とっくに竜の渓谷を出ている頃であった。それが叶っていないのは、祭りがあったからという理由だけではない。今回の奇襲で、王都の人間に不信感を抱いてしまったせいでもあった。


「元々俺たちは、王都に向かう予定でした」


「……貴方達、王都に行くの?」


「それが、今回の件で王都に行く足が重くなってしまって……」


 ユズルとユリカが今知っている情報は以下の通りだ。


 まず、王都軍が攻めてきた理由は奪われた竜の財宝を取り返すためであり、竜の財宝は今王都軍の手に渡っている。


 そして、王都軍と竜人の衝突は過去にもあり、お互い対立的関係にある。


 この情報が正しいかなんて保証はどこにもないが、二人に与えられた情報はこれが全てだった。


「……今から言うことは、他の人には言わないで」


「……っ、はい」


 突然ミカエラのトーンが変わる。

 その言葉を聞いた時、全てが繋がった。


「竜の財宝は、魔族の生みの親である悪魔の心臓だったの。それは何百年も前に、竜王様が聖王から託されたものらしいの」


 やはりそうだ。王都軍は黒だ。


「どうしてそんな大事な情報が今まで……」


「それは、悪魔の心臓の存在を知っていたのが聖王一族と竜王様だけだったから、らしいわ」


 聖王と竜王のつながりに関しては、深追いしない方がいいだろう。とにかく今の話で、王都軍の「奪われた竜の財宝を取り返す」という発言は黒だということが証明された。


 仮に、王都軍の兵士が指示どうりに動いているだけで詳しい内容が知らされていなかったとしても、嘘の情報で兵士を動かす指揮官達は完全なる黒だった。


 ただユズルには、ひとつの疑問が残った。

 それは、竜の財宝を奪い返すためで無いならば、王都軍は何の目的で竜の財宝を持ち去ったのだろうか。こんな壊滅的被害を与えてまで欲していたところを見ると、ただ事では無さそうだ。

 

 また、過去にも交戦があったことを考えると何としても手に入れたい理由があるんだろう。


(いや、待てよ……?)


「悪魔の心臓の存在は、竜王と聖王一族しか知らないんですよね?」


「え?えぇ、そう聞いているわ」


「なら、王都軍はなんで悪魔の心臓の存在を知っていたんだ?」


「っ……!確かにっ……!」


 何者かが王都軍に情報を流したことになる。

 何者かなんて、思いつく人物は一人しかいない。

 王都で最も権力があり、この人間界の王。


「聖王が王都軍に情報を流したんだ」


 ただそうなってくると話はここで打ち止めとなる。聖王を探ろうなんて、素人ができることでは無いからだ。


「聖王は恐らく軍の上層部、少なくても階級が大佐以上の者に情報を流したんだと思う。奇襲時に交戦した兵士は、竜の財宝の存在については知っていたけど、悪魔の心臓とまでは言っていなかった。勿論、目的も知らなかった」


 となると、この一連の流れに関与しているのは聖王を含めた軍の上層部だけということになる。


「……竜王様のところに行ってくるわ」


 話を聞くなりミカエラさんは竜王の元へと急ぎ足で向かった。その姿を見届け、ユズル達は改めて今後の旅の予定を考え直すのだった。




──王都 エルミナス 王城 地下


「……戻ったか、グランドゼーブよ」


 王城の地下深く。

 天井から滴り落ちる水滴の音だけが、空間内に響き渡る。


「はい、聖王様」


「例のものは手に入ったのか?」


「勿論でございます。これで残すは、忌み子の血のみとなりました」


「……ついにここまで来たか」


 気がつけば二人は、開けた空間へと出ていた。

 地下に作られた巨大空間。その最深部には、先代の聖王 レオンの遺体が祀られていた。死後数百年経過しているのにも関わらず、その姿は今も傷一つなく保管されている。


「この世界を変えられるのは、彼しかいない」


 現聖王 レオポルトが厳粛な面影でレオンの棺に触れる。


「何としても彼を生き返られるのだ。例えそれが、悪魔と契約する事になるとしても──」


次回、遂に第4章完結──。

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