表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/186

第42話 竜の怒り



「竜王様!」


「……ドレークか」


 グランドゼーブが去った後、いち早く竜王の元に駆け寄ったのはドレークであった。


「ご無事で何よりです……」


 遅れてアーノルドとティネーガがやって来る。


「みんなこそ無事でよかった」


 竜王は竜化の術を解き、少女の姿に戻っていた。

 目立った外傷もなく、意識もはっきりしているようだった。


「どうして奴を逃がしたのですか?」


「……これ以上戦闘が長引けば、この集落は更地と化していただろう」


 体の砂を叩き、竜王は立ち上がる。


「私のことよりも、まずはミカエラの安否を確認しなければ」


「そういえば、ミカエラはどこに?」


「ミカエラには、竜の財宝の護衛を頼んでいた。竜の財宝が向こうの手に渡ったということは、ミカエラは王都軍と接触していることになる」


 竜の財宝は、王都軍が持ち去った。

 それは、ミカエラが王都軍の兵士に敗北したことを伝えていた。


「ミカエラ程の実力者がそこらの兵士に負けるとは考えられない」


「だが、結果的に竜の財宝は向こうの手に渡っている。それに、ミカエラが今この場にいないことが、何よりの証拠じゃ」


 竜王の言葉に、全員がハッとする。


「お前らに隠す理由はもうない。竜の財宝があった場所まで案内する、着いてこい」


 竜王に連れられ、ドレーク含めた三名が洞窟の中へと入っていった。




「……ん?」


 最初に目を覚ましたのはユズルだった。

 周りを見渡して、ユズルは言葉を失う。

 建物はあらかた倒壊し、先程まで争っていた王都軍の兵士は皆、地面に伏した状態で動く気配はなかった。


「そうだ、ユリカは……っ」


 当たりを見渡す。

 すると、倒壊した家屋の下で何かが光ったのが見えた。


「ユリカ!」


 光の正体。それはユリカの首にかけてあった、あのネックレスだった。幸いユリカの倒れていたところには空洞ができており、命に別状はなさそうだった。


「意識はないが……息はしてるな」


 見たところ出血もなく、ただ気絶しているだけのようだ。

 ユリカを安全な所に移動させ、改めてあたりの惨状を目の当たりにする。


(竜王と大佐の戦いは終わったのか……)


 ユズルが目を覚ました時には既に勝負が決していた。

 ただ、勝敗は分からない状態だった。


「あれが王都軍四番手の力……」


 先程の戦闘が頭に蘇る。

 たった一振で家屋を倒壊させ、数キロ先まで衝撃波が伝わった。今まで見てきた者たちとは、明らかに次元が違っていた。


「そうだ、ミカエラさんはどうなったんだ?」


 ミカエラは、ユズル達を家に送り届けるなり急ぎ足でどこかへ飛び去った。 


「無事ならいいんだけど……」


 不安が募る中、ユズルはユリカの横に腰を下ろす。

 ユズルの手足は、恐怖で震えていた。




「ミカエラ!」


 竜の財宝が元あった場所に、ミカエラはいた。

 傷や出血はなく、地面に伏せた状態だった。


「これはまずいな……」


 外傷を確認していたアーノルドがそう声を漏らす。

 ミカエラの体は、一時的なものだが呪術に犯されていた。


「脈がかなり弱くなってる。とりあえず医者のところに運ぼう」


「医者のところって……あの惨状が見えてないのか?」 


「じゃあ俺たちに何ができるって言うんだ!まずはここを出て……」


「……私の家に連れてって」


「ミカエラ?!」


 言い争いの最中、ミカエラが意識を取り戻す。その表情は青ざめていた。


「私の家に行けば、特効薬がある。……お願い」


「……分かった」


 ドレークはミカエラを担ぐと、猛スピードでミカエラ宅を目指す。


「……誰か来る」


 ミカエラ宅で待機していたユズルが、何者かの接近に気づく。


「敵か?……いやあれは……」


 こちらに向かってくる一人の影。

 その背中には、何者かが背負われていた。


「ユズルか?」


「ドレークさん!……と、ミカエラさん?!」


 こちらに向かってきていた影の正体は、ミカエラを背負ったドレークだった。ミカエラの顔を見て、ユズルは驚く。


「ミカエラさん、大丈夫ですか?」


「……今は少し、余裕がないわ」


 ドレークがミカエラを背負ったまま家の中へと入る。


「その角を右に行って」


 ミカエラが支持する通りに進む。

 すると、棚一面に薬品が置かれた部屋に着いた。


「A-23とK-4を持ってきてちょうだい」


 ミカエラに言われた通り二つの薬品を手渡す。

 流石呪術師とでも言おうか。

 自分の犯されている状態がわかっているようだ。


「ありがとう、これでだいぶマシになるはずよ」


 徐々にミカエラさんの顔色が戻り出す。

 それを見て、二人は胸を撫で下ろした。


「一体あそこで何があったんだ?」


 落ち着きを取り戻したミカエラに、ドレークが問う。


「……王都軍の一人と交戦して、呪術を掛けられたの」


 ミカエラは拳を強く握る。


「とんだ屈辱だわ……。まさか私が呪術に屈するなんて」


 ミカエラの声が震える。

 呪術師のミカエラにとってこの敗北は、あまりに屈辱的だっただろう。


「……もう、次は無い。私のせいで……」 


「っ!お前のせいじゃない!」


 涙を浮かべるミカエラに、ドレークが怒鳴りつける。


「竜王は、お前を辱めるために護衛を頼んだんじゃない!お前を信用していたから頼んだんだ!」


 ドレークの声に熱がこもる。


「誰もお前を攻めない!竜王だって、お前が無事ならそれでいいって言ってくれるはずだ!」


「竜王が良くも、みんなは……っ」


「そんな奴、全員俺が黙らせてやる!信用もされてねぇ奴らが、お前ら全員寄って集ってもミカエラの足元にも及ばないくせに!ってな」 


「……それは言い過ぎじゃないかしら」


 ミカエラの目から涙がこぼれる。

 しかしその表情は笑っているようだった。


「何があっても、俺はお前の味方だ!だから、自分を責めないでくれ……」 


 ドレークが膝を着き、ミカエラと視線の高さを合わせる。


「君が無事で良かった」


 心から安堵するドレーク。

 二人の姿を見て、ユズルもなにか込み上げてくるものがあった。




 竜人達の逆襲は、ここから始まる──。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ