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第41話 呪術師の屈辱


 地上で竜王と大佐が対峙している頃、竜の財宝の元にいち早く辿り着いたのはミカエラであった。

 なぜミカエラが財宝の在処を知っていたのか。


 話は昨日に遡る──。




 ユズル達に「用事がある」と言って家を出たミカエラが向かったのは、竜王の間だった。


「久しぶりじゃの、ミカエラ」


「竜王様……本日はどのようなご要件で?」


 ミカエラを呼び出したのは、竜王 リントヴルムであった。竜王を前にしても尚冷静さを保つミカエラの姿は、まるで竜王を謁見することに慣れているかのようだった。


「フィーナ達の所にはもう行ったのか?」


「……はい。昨日の朝一に」


 亡き母の名前を呼ばれ、ミカエラの顔が暗くなる。


「それで本題に移るが……お前は仲間のために死ねるか?」


 突然の質問にミカエラは目を見開く。

 言っている意味がわからない。

 仲間のために死ねるか?


「……この竜の渓谷は私の居場所であり、家族です。もしみんなが命の危険にさらされるようなことがあれば、必ず私が守ります」


 果たしてこの答えが正解なのだろうか。

 この言葉に嘘はない。

 両親を失い、哀しみに暮れるミカエラを救ったのは、紛れもなくこの渓谷に住む皆だった。

 そんな皆を見殺しになんて、ミカエラにはできなかった。


「……着いてくるが良い」


 ミカエラの返答を聞くなり、竜王が洞の奥へと歩き出す。

 地上の光が届かない、暗く冷たい洞窟の奥にそれはあった。


「……これって?」


悪魔(グリモア)心臓(ハート)。"竜の財宝"の正体だよ」


「これが……っ」


 竜王以外見たことがないと言われている竜の財宝が今、ミカエラ自身の目の前にある。


「どうして私にこれを?」


「私の命はもう長くない」


「……っ?!」


 突然の告白だった。

 勿論病気等にはかかっていないし、体も不自由なく過ごしている。寿命にしたって、何百年も生きている竜王がたった数ヶ月で死ぬなんて考えられなかった。

 ミカエラの前にいる竜王は余りにも健康体すぎるのだ。


「どうしてそう思うのですか?」


「……我の力ではもう、この時代にはついていけないのじゃ」


「そんなの分から──」


「数日の間に王都軍が奇襲を仕掛けてくる」


「……今なんて?」


「そこできっと分かるはずじゃ。私と人類の間に、どれだけ力の差ができてしまったのかが」 




 昨日の会話が鮮明に蘇る。

 まさか昨日今日で襲撃されるとは思っていなかった。


「未だに人が来る気配はないけれど……地上は今どうなっているのかしら?」


 恐らく竜王は、敵の指揮官と交戦しているのだろう。


「……それにしても二人には悪いことをしたわね。いきなりだったとはいえ、何も言わずに置いてきちゃって……」


 今頃ユズル達は何をしているだろう。

 きっと状況が飲み込めずにいるだろう。

 もしかしたら戦闘に巻き込まれているかもしれない。


(あの二人なら心配は要らないと思うけど……)


「これが悪魔の心臓かぁ」


「……っ?!」 


(いつの間にっ、全く気づかなかった……っ!)


 ミカエラは勢いよく振り返る。

 勿論油断なんてしていなかった。


「……どうやってここまで来たの?」


「んー?俺っちもよく分かんない!」 


 少年は子供のような口調で話す。

 その右手には、竜の財宝が握られていた。


「貴方、王都軍の者ね」


「うん、そうだよ。お姉さんは?」


「私はこの渓谷の住人よ」


 相手を刺激しないよう、丁寧に受け答える。

 話し方に子供っぽさが残るが、恐らく相手は自分より何枚も格上だ。ミカエラに気付かれずにこの狭い通路を抜けてきたかと思うと、背筋がゾッとする。


「それじゃあ俺っちそろそろ行くから。急がないと大佐にまた怒られちゃう」


「……大佐ですって?」


「お姉さん知ってるの?」 


 ミカエラが驚いているのは大佐という階級にでは無い。

 大佐 グランドゼーブ本人がこの場にいる事に驚いているのだ。


「……彼は今どこに?」


「分かんない!けど多分竜王?って人と戦ってると思う」


「そう……」


 ミカエラは一刻も早く地上に戻りたかった。

 竜王を援護したいから、というのも理由の一つだがもっと大きな理由(わけ)があった。


(グランドゼーブ……私の両親を殺した男……っ)


 怒りで顔が歪む。だが、今は感傷的になっている時ではない。

 まずは竜の財宝を守り抜かなければ──、


「……え?」


 今、何が起きたの?

 困惑するミカエラの目の前には、洞窟の天井が広がっていた。


(なんで倒れて……っ)


「ごめんね、お姉さん。暫くそこで寝てて」


「なに、を、したの?」


 震える体を起こし、少年を睨む。

 足に力が入らず、立ち上がることさえできない。


「これってまさか……」


「呪術だよ。でも安心して、すぐに解けるから」


 少年の後ろ姿が徐々に小さくなる。

 次第に意識が朦朧とし始め、ミカエラは床に張り付くように突っ伏す。

 この敗北が、呪術師であるミカエラにとってどれだけ屈辱的であったか。


 敗北を知った竜は、復讐を誓って心の炎を燃やすのだった。


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