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第37話 竜王祭-最終日



「それでは三位決定戦を行います!まずはこの方──」


 ドレークの声が会場に響き渡る。

 時間の流れは早く、遂に竜王祭最終日を迎えた。

 最終日の今日、ユズル達一行は朝から闘技場に足を運んでいた。

 二日間の武道会を勝ち抜き、最終日の今日まで駒を進めた強者共が今、ユズル達は前でその腕前を披露している。

 隣で試合を観戦するユリカの胸元には、蒼い輝きを放つペンダントがかけられていた。




「なんですか、それ?」


「プレゼント。開けてみてよ」


 展望台からの帰宅後、ユズルはひとつの小包をユリカに渡す。


「これって昼間の……」


 小包の中には屋台通りで見た、例のペンダントが入っていた。

 ユリカの瞳と同じ蒼色の宝石が埋め込まれたペンダント。

 ユリカは袋からペンダント取り出し手に取るとユズルに差し出した。


「……付けてください」


 ユリカはユズルに背を向け、首筋が見えるよう髪を持ち上げた。

 初めて見るユリカのうなじに思わず視線を逸らしてしまう。


「……どうですか?」


「……似合ってるよ、とても」


 その言葉に嘘はない。

 むしろその逆、あまりの可愛さにユズルは声を無くした。


「……すごく可愛い」


「っ……!」


 あっ。

 不意に本音が口からこぼれる。

 その言葉を聞いて、ユリカの顔が耳まで真っ赤に染まった。

 ユリカの新しい一面を見れて嬉しい反面、恥ずかしさで一刻も早くこの場から立ち去りたかった。

 結局ミカエラさんが帰宅するまで、お互い無言を貫いたのだった。




(昨日はあんな事もあったけど、改めて見るとやっぱり似合ってるよな……)


 そんなことを考えているうちに、試合はいよいよ最終局面へと移る。

 ちなみに今戦っているのは、細長い身体と素早い動きが特徴のリザートと、動きこそ平均並みだが腕力が凄まじく、振り下ろした拳は数メートル先の岩をも砕くダートの二人だ。

 ユズルを下したアーノルドは昨日の準決勝に勝利し、無事決勝へと進出した。

 アーノルドの強さは圧倒的で、どの試合も十分とかからないうちに勝負が着いていた。

 三日目とは思えない身のこなしを目の前にして、ドレークの実況にも熱が入る。


「どっちが勝ってもおかしくないこの戦況!一貫して押しているのはリザートだぁ!」 


 素早い動きを活かし、軽い打撃だが確実にダートを場外へと押し込んでいる。


「おっとここでダートの動きが止まったぁ!場外まであと数センチ!リザート、押し切れるか!」


 絶えず攻撃を仕掛けるリザート。

 そして、反撃のチャンスを狙うダート。

 

 一歩も引かない攻防戦の中、遂にダートが動く。


「ダートが右手の振り上げたぞ!一体何が目的なんだ!」


 ダートの動きに目もくれず、リザートはひたすら攻撃を続ける。

 恐らく避けきれると判断したのだろう。

 実際リザートの速さなら、縦に振り下ろしたダートの攻撃は安易に避けられるだろう。

 だが、ユズルは既にこの勝負の結果が見えていた。


 恐らく振りかぶった拳はフェイク。

 本当の目的は……


「勝負あり!まさかまさかの大逆転!リザートの場外反則により、勝ったのはダートォ!!!」


 本当の目的、それは振りかぶっていない方の拳にあった。

 皆振りかぶっている拳に意識が行きがちだが、ダート本人も、ただ拳を振り下ろすだけではリザートの速さには敵わないとわかっているようだった。

 だが、動かしていたい方の拳ならどうだろうか。

 確かにダートの動きは平均並みであり、ただ振るだけではリザートに避けられてしまうだろう。

 そこで振りかぶった拳が鍵となってくる。

 拳を縦に振り下ろす。

 ダートの拳は衝撃波が生じるため、後ろには逃げられない。

 そうするとリザートは必然的に右から左へと逃げるしかなくなる。

 逃げる方向を自ら絞ることで、一瞬の隙を作ったのだ。


 ダートの雄叫びと観客の歓声が渓谷内に響き渡る。


「さぁ移動するわよ!」


 ミカエラさんが席を立つ。

 周りを見ると、観客席の人々が闘技場の出口をめざして一斉に移動を開始していた。


(ちなみに祭り期間中は渓谷内での飛行が禁止されているため、こうして移動や観戦の時に人が密集してしまうそうだ)


「何処に行くんですか?」


 人並みに飲まれながらユズルが問う。

 ユリカはミカエラさんの胸の中に収まっている。


「決勝戦の舞台はここじゃなくて、離れにある大岩の上で行われるの」


「もしかして、昨日見た……」


 昨日ドラゴンライダーでの移動中、二人はあるものを見つけていた。

 それは目を疑うような大岩だった。

 決して闘技場が小さいわけじゃないのだが、その大岩は一回りも二回りも大きかった。


「決勝戦は場外反則無しの実力勝負なの。武器や魔法の制限はついたままだけどね」


 行く先々で町中の人々が行進に参加する。

 闘技場から出た観客の大群は、町中の人を集めて巨大化して行った。


「決勝戦が終わったら、遂に竜王様の演舞が見れるわよ」


「遂に竜王を拝めるんだな……」


 少し楽しみな半分、軽く恐怖を感じていた。




 大岩の周りには、屋外用の仮設観客席が設置されていた。

 さすが竜人と言おうか。

 昨日ドラゴンライダーから見下ろした時はこのような観客席は確認できなかった。

 竜人は飛べる分、作業が早く進むのだろう。


 観客席に着いたところで、改めて規模のでかさに心が踊る。

 目の前に広がる大舞台。

 白く丸い大岩を挟んで見える、反対側の観客席がすごく小さく見える。

 

 竜人の力は世界トップクラスだと恐れられている。

 その竜人の頂点が決まる戦いだ。

 魔法や武器が絡まないとはいえ、世界最高峰の戦いに違いはない。

 こんなものが毎年開催されていたなんて……。


「皆さん、今年もこの時がやってきました。本日、この場で、今年の竜人一が決まります」


 ドレークのナレーションが会場に響く。

 先程までの覇気はなく、声のトーンが低い。

 ドレークが息を深く吸い込む。


「皆さん、準備はいいですか?」


「「「「うぉぉおおおお!!!」」」」


 会場の熱気が一気に上がる。


「それでは行きます……竜王祭決勝戦、アーノルド対ティネーガ、試合開始!!!!!」


 ドレークの試合開始宣言と同時に、決勝戦が幕を開けた。

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