第31話 竜王祭-1日目
発砲音が聞こえ目を覚ます。
もちろんそれは襲撃音ではなく……
「二人とも、そろそろ起きないと始まっちゃうわよー」
祭りの朝を知らせる鐘が町中に鳴り響く。
ユリカの方を見やると、既に準備を終えているようだった。
その表情から祭りが楽しみなのがよく伝わってくる。
もしかしたら、こういう祭り事が好きなのかもしれない。
ユズルが参加することになった武道会は朝から予選がある為、祭りの観光は試合の空き時間にすることになっていた。
会場への移動中、ミカエラさんと武道会のルールを確認する。
「まず、魔法の使用は禁止。有りにしちゃったら、魔法大会になっちゃうもの」
ミカエラさんの言う通り、素手で魔法に立ち向かうのは無理がある。
ユズルもこのルールには激しく同意だった。
「次に使っていい武器は支給された木刀のみ。勿論使わないってのも一つの手よ」
ちなみにミカエラさんは過去の大会で一度も木刀を振ったことが無いらしい。
(つまり素手で優勝したのか……)
「……そんなに見られると恥ずかしいわ」
「あ……す、すみません!」
無意識にミカエラさんの腕を凝視してしまっていた。
だが、いつ見てもミカエラさんの手は繊細でとても強そうには見えない。
(人は見た目じゃないってことだな……)
「勝利条件は相手を戦闘不能にするか、場外に落とすかの二択よ」
会場の幅は人が十人寝そべっても入るぐらい広く、円形になっている。
その円盤の周りには観客席があり、まじかでその試合を観戦することが出来る。
「作戦は決まったのかしら?」
「一応、イメージはあります」
ユズルの作戦。
それは、勝利条件の二つ目である場外反則を利用したものだった。
木刀は渡されているものの、ほぼ生身の人間が竜人とやり合うなど自殺行為だ。
力の差が明らかだと分かっているため、真正面から戦うのではなく、場外におびき寄せるのがユズルの作戦だった。
「それじゃあ私はユリカちゃんと観客席で見てるから。頑張ってね」
「頑張ってくださいね」
「二人共ありがとう。頑張ってくるよ」
二人と別れ、選手の控え室へと向かう。
当たり前だが部屋の中にはいかにも強そうな竜人達がアップを始めていた。
「お前が俺の初戦の相手らしいな?」
部屋に入るなり、一人の竜人がユズルに話しかける。
顔に傷があるせいか、周りの竜人より怖く感じる。
「あ、あぁ、俺はユズルだ。よろしく」
ユズルは腕を差し出す。
その腕を竜人は軽く握る。
「俺はブラストだ。よろしくなぁ」
顔は怖いが良い奴なんだろうな、とユズルは心の中で思った。
「皆様よくぞお集まりくださいました!今年も始まります、竜王祭のメインイベント武道会!」
「「「「うぉぉおおおお!」」」」
会場に司会の声と観客の悲鳴が鳴り響く。
ちなみに武道会の司会進行はドレークが行っている。
「それじゃあ第一試合の選手入場です!」
入場口の両脇から火が吹きでて観客の視線が集まる。
「まずはこの方!怖い顔して優しい奴でお馴染み、ブーラースート!!!」
「うおおおおおお!」
入場するなりブラストが腕を高く突き上げ吠える。
その姿を見て観客が声を上げる。
なるほど、こうやって盛り上げるのか。
(いざ始まるとなると緊張するな……)
魔人と戦うのとはまた違った緊張が走る。
異国の地で住民の前に出て戦うなど、考えたこともなかった。
震える足を抑えながら、入場口に足をかける。
「続いてはこの方!なんと出身はここから遥か東方にあるアルバ村!流浪の旅人、ユーズール!」
「う、うおおおおお!」
ブラストの見様見真似で腕を突き上げる。
見上げるとどうやら盛り上がってくれているようだった。
少し安心。
「それでは、今年最初の第一試合、開始です!!!」
ユズル対ブラストの試合が、幕を開けた。