第27話 根源なる回帰
「お前たち、どこに行ってたんだ?」
村に戻ったユズル達に既に顔なじみと化している商人が話しかけてくる。
「お前たちがいない間にすげぇことが起こったんだ。ちょっと来てくれ」
すごい事とは、恐らくメイシス関係のことだろう。
(さて、問題はここからだ。メイシスの選択が吉と出たのか凶と出たのか……)
吉は村の住民と和解していること。
凶は村人に反対され晒し者にされていること。
結果は前者の方だった。
「ユズル、ユリカちゃん!」
商人に連れてこられた集会所の奥でメイシスが2人に気づいて手を振る。
「メイシス……勝ったんだな」
彼女の笑顔を見れば、分かる。
メイシスは自分の力で自分の運命に勝ったのだ。
「二人共、本当にありがとう」
隣で見ていた商人は「なんだお前たち、知り合いだったのか」と驚きの声を上げていた。
お互いの無事を確認したところでユリカが口を開く。
「メイシスさん、例の本今用意できますか?」
「え?えぇ出来るけど……」
なぜこのタイミングで?と言った顔だ。
その疑問の答えは全て本に書いてあった。
「今なら"根源なる回帰"を発動できるかもしれません」
「っ?!それは本当?!」
「はい、実はもう根源なる回帰についてはある程度解読はできていたんです。ですが……」
ユリカはユズルの方を見る。
その目は悲しい目をしていた。
「この魔法は完全に魔人化した人にしか効果はないんです。ユズルさんのように部分的なものは治せないんです」
その一言は、ユズル達の旅の延長を告げていた。
(まぁ治っても旅は続けるつもりだったけどな。魔王のこともそうだけど、ユリカについても。知りたいことはまだまだあるんだ)
「今なら発動出来るって言っていたけど、どういうことなのかしら?」
メイシスに本を取ってきてもらい、場所を移動する。
初めてメイシスに会った場所、噴水のある広場に。
その広場にいるのはメイシス達だけでは無い。
複数の村人も着いてきている。
というのも、
「原本とはいえ、やはり禁忌魔法。今の時代に生きる私たちが扱えるものではありません」
文明とともに魔法も進化している。
昔のような荒い魔法は、今の時代の人には扱いにくいものなのだ。
「ですので協力者が必要です。私を軸にして魔力のある方10名。どなたか協力してくださる人はいませんか?」
ユリカはそう告げ、村人の方に頭を下げる。
「ユリカちゃん……っ!」
その姿を見たメイシスも前に出て頭を下げた。
「お願いします!」
「俺からもお願いします!」
暫く沈黙が続く。
が不意に声が聞こえた。
「……私でよければ協力しますよ」
その声を起点として数人の人が声を上げる。
「魔女さんにはうちの子を助けて貰ったからな」
「俺も治してもらったんだ。あんたには感謝している。ぜひ協力させてもらうよ」
「皆さん……」
メイシスの声が震えているのが分かった。
それは決して恐怖のような冷たい感情が作用したからでは無い。
まさにその逆。
村人の温かさが、何十年も孤独だったメイシスの心を動かしたのだ。
瞬く間に目標としていた10人が集まり準備が完了した。
「メイシスさん、術を発動する前にひとつ告げておかなければならないことがあります」
「何かしら?」
禁忌魔法。
代償無くしてその魔法は完成しない。
「この術を受けた者は、通常の三倍の速さで老化が進みます。つまり寿命は30前後。メイシスさんはもう10代後半に見えますから、おそらく長くて20年しか生きられなくなります」
先程までとは異なり、重苦しい空気が漂う。
でも、メイシスは違った。
「私、魔女になってなかったら今頃60代のおばあさんよ?20年なんて勿体ないぐらいだわ」
その声には強がりや不満は感じられなかった。
「それでは始めますね」
「お願いします」
村のみんなが見守る中、遂に禁忌魔法が発動された。
「根源なる回帰」
暖かい光が、村中を包み込むのだった。
「気分はどうですか?」
「……えぇ、とてもいいわ」
そう言って涙を流すメイシスは、人間だったあのころの姿を取り戻していた。
また1つ、世界の歴史が変わったのだった。
<あとがき>
ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!
遂に次回地下の魔女編最終回となります!
短いようでかなり濃い、そんな章になったかなと思ってます笑
予定通り行けば今週末に最終話投稿できると思うので、是非よろしくお願いします!