第25話 あの日の光をもう一度
「俺の方が強ェだァ?」
魔人の足が地面に飲み込まれていく。
「じゃァまずは俺に一撃でも食らわせてみるんだな!」
(消えた……ッ!)
いや、すぐ近くで気配を感じる。
「何処だ!」
どこだ、どこにいる?!
溢れ出る不快感が汗となり頬を伝う。
「俺はここだァ!」
「っ!」
背中に打撃が入れられる。
すかさず振り向くが、そこに魔人の姿はない。
(まさか……)
魔人の行動、発言から能力を推測する。
あいつは最初地面と同化していた。
(まさかこの黒い地面は……)
その時ユズルはある事に気づいた。
それは自分の影が地面に写っていないことだ。
いや、ユズルだけでは無い。
周りを囲う城跡でさえ影がなかった。
(影が消えたんじゃない、この黒い地面全てが影なんだ!)
もしそうだとしたら、奴の能力は影を操る能力。
この黒い場所全てやつの一部ってわけだ。
「突っ立ってんじゃねェよ!」
次は腹部への打撃が入る。
一瞬だが、確かに地面から飛び出てきたように見えた。
影には光だ。
「ローレンス式抜刀術陸の型 煌牙!」
光の粒子を纏う刃を地面に突き立てる。
すると、地面からやつが飛び出してきた。
そこを逃す訳には行かない!
「ローレンス式抜刀術壱の型 煌龍!」
「影の障壁!」
すんでのところで守られてしまう。
だが、光魔法が通じることがわかったのは大きな収穫だった。
今ユズルが使える光を纏う剣技は、"壱の型 煌龍"、"陸の型 煌牙"、"拾壱の型 煌煌"、そして、
(結局まだ未完成だが、初ノ型も光系統の剣技だ)
このうち、"拾壱の型 煌煌"は魔力の消耗が激しく、まだ一人の時に使うのは怖さがある。
大気中の魔力を利用しているとはいえ、そこに無限の魔力が存在するわけでない。
枯渇してしまえば最後、奴を仕留めることは到底叶わない。
そうこうしているうちに奴がまた姿を隠す。
(もう弱点はわかってんだよ!)
「煌牙!」
光る刃を地面に突き立てる。
だが、反応がない。
(逃げたのか?)
いや、近くにいる。
その違和感に気づいた時には遅かった。
「影の破滅弾!」
「ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
(建物の上まで移動して……ッ!)
攻撃を受けた部分が黒く染る。
(影に侵食されているのか……?)
「俺の魔法はァ、触れた物全てを影に変える。てめェももうすぐ俺の一部になんだよォ」
魔人が高らかに笑う。
近寄ろうとすればまた姿を隠してしまうだろう。
かなり距離はある。
だが、試してみる価値はある。
(それに俺はひとりじゃねぇ……)
手に握られた剣に目を落とす。
おじいちゃん、英雄ローレンスが着いている。
ユズルは剣を構える。
「なんだァその構えはァ?」
ユズルも初めて見た時は魔人と同じ感想だった。
だが、真似するうちにこの構えの意味がわかった。
この技は引くことを考えていない。
この構えしたら最後、
「ローレンス式抜刀術──、」
どちらかが敗北するだけだ!
「──初ノ型 聖龍!」
魔人に潜らせる隙を与えない一撃。
……しかしその刃は、魔人には届かなかった。
(くそっ!全然距離が伸びねぇ!)
当初懸念していた問題点が浮き彫りとなる。
飛距離も速度も全くもって足りていなかった。
「っ、ビビらせやがってェ!死ねェェェえ!」
(まずいっ!)
空中で体勢を崩してしまっている今、避けることが出来ない
今、攻撃を受けてしまったら全身が影に染ってしまう。
「影の破滅弾!」
迫り来る影を見つめ、ただ自分の無力に絶望していた。
俺は、シュバルツを手にする器ではなかった。
(俺は……おじいちゃんのようにはなれない……)
「栄光なる領域」
ユズルの体を光の球が包み込む。
光の球は影を分散させユズルの体を守ってくれた。
(この声……どうして……)
「間に合ってよかったです。回復するまで、少し休んでいてください」
「……ユリカっ」
ユズルの目の前には、ユリカの姿があった。
「増えやがってェ、てめェ誰だァ?」
「栄光なる粛清弾」
(なっ!)
ユリカは躊躇なく的に魔法を放つ。
その迷いの無さに魔人は避けるまもなく食らってしまう。
「チッ!」
(まずいっ、また地面にっ)
「ユリカ!下だ!地面が黒くなっているところは全て奴の一部だ!」
「っ、栄光なる地均」
地面がひび割れるかのように、黒い地面に光の線が張り巡らさる。
広範囲に及ぶ魔法、常人では到底扱えるようには思えない。
だが、この一瞬のうちに魔人はユリカに迫っていた。
「うぜェんだよォ!影の破滅弾!」
至近距離での技の発動。
ユリカはかわすことなく食らってしまう。
流石にこの距離で食らってしまっては、全てが影に染ってしまう。
……のはずだったのだが、
「ユリカー!………ユリカ?」
ユリカが攻撃を受けた部分に影の侵食は見られなかった。
詠唱する時間は勿論、守りに入る時間さえなかったはずだった。
ユリカはどうやって自分の身を守ったんだ?
「私に黒魔法は効きません」
「なッ!」
(なっ!)
「栄光なる粛清弾」
「ッ、影の破滅弾!」
影と光のぶつかり合い。
一歩も引かぬ展開に、戦闘は膠着状態となる。
(特訓していたとは聞いたけど……これ程とは……)
ユリカの強さは、通常の村の騎士団長に匹敵する程だった。
先に動いたのは魔人の方だった。
「チッ!」
(逃げた?!)
魔人は再び地面に潜ったかと思うと城を超えて逃げ出した。
「ユリカ、またさっきの魔法を頼む!俺は出てきたやつの核を破壊する!」
「っ、分かりました!」
ユズルは再び初ノ型の構えをする。
実際に使ってみて分かったことがある。
一番大切なのは速さでも、飛距離でもない。
本当に大切なのは、
「聖剣 シュバルツを信じることだ!」
そう叫んだ瞬間、以前フォーラ村でユリカを助けた時の様に剣が光り出す。
(村は破壊できなかったが、かなりの損害は与えた。これで俺も貴族の仲間入りだァ……)
「栄光なる地均」
光が黒い地面を伝い、魔人が顔を出す。
「チッ!またかよォ!でもその魔法を発動している限り俺へは攻撃できねェだろォ!……ァ?」
振り返った刹那、目に飛び込んできたのは先程の剣士。
(馬鹿なァ!かなりの距離移動してきたはずだァ!)
「ローレンス式抜刀術初ノ型──、」
次は、外さない。
「──聖龍」
聖剣 シュバルツは50年の時を経て再び、魔人を討ったのだった。
<あとがき>
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます!
何気にユリカとユズルの初共闘シーンとなっております!
これからもよろしくお願いします!




