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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第3章 地下の魔女編
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第24話 異変



 メイシスと連絡が途絶えてから三日がたった頃、突如それは起こった。

 いつも通り朝の市場を散歩していると、商人たちが集まって話しているのが見えた。

 だが、様子がいつもと違う。

 いつものような笑顔がない。


「そっちもダメかい?」


「ああ、数日前からこんなんばっかで困っちまうよ」


 商人たちの手には黒ずんだ果物や野菜などが握られていた。


「きっとあの魔女の仕業だ」


「間違いねぇ。きっとどこかに隠れてるはずだ」


「っ……すみません、」


 聞き捨てのならない言葉が聞こえ、咄嗟に声が出てしまう。

 商人たちの視線がユズルへと向けられた。


「……それ、どうしたんですか?」


「兄ちゃん、これが気になるのか?」


 「はい」と応えると数人の商人が「見せてやるから着いてこい」とその場所に案内してくれた。

 連れてこられたのは村外れにある畑だった。

 ただほかの畑と違う点がひとつ。


「黒い……」


「数ヶ月前からこうなんだ。異変に気づいた時はまだ病気かなんかだろうと思っていたんだが、ここ数日でかなりの数がやられちまってな。しかもそれだけじゃねぇんだ」


 黒く染った畑をさらに進むと結界と触れ合うところまで行き着いた。

 そこで目にしたのは、


「これ、結界の外まで続いてる……」


「そうだ、これのせいで周辺の動物が寄り付かなくなって肉が不足してるんだ」


 他の商人たちは魔女のせいだと騒ぎ立てている。

 だが、メイシスのことを知っているユズルはこれが彼女の仕業じゃないのが一目でわかった。

 これは明らかに外部から来たものだ。

 だが、メイシスの事を商人に話せばユズルはおろか、ユリカにまで被害が出る可能性があった。

 自分一人残して二人を逃がしてくれたメイシスのことを考えると、とても言い出せなかった。


 事が動いたのは翌日の事だった。




 聞きなれない音が聞こえ目を覚ます。

 窓から見下ろすと何やら武装した男たちが周辺を散策しているのが見えた。


(まさか、メイシスを探しているのか?)


 そうだとしたらかなりまずい事態だ。

 とりあえずユリカを起こし、支度を整える。

 昨日のことはユリカにも伝えてあり、ユリカもメイシスさん以外の仕業であると判断した。


(だが、なんで突然動き出したんだ?)


 昨日まで、捜索するような素振りは一切なかった。

 それに装備や動きを見る限り、昨日今日で集められたようにも見える。


「……直接聞くのが一番いいと思います」


「……そうだな、行くか」


 宿から出て市場に行くと、いつもなら人で溢れかえっている時間のはずが静まり返っていた。

 と、その中に昨日ユズルを畑に案内してくれた商人(おっちゃん)を見つけ駆け寄る。


「何かあったんですか?」


 商人(おっちゃん)は「お前は昨日の……」と言うと状況を説明してくれた。


「村の子供たちが魔女にやれたんだ」


「どういう、ことですか?」


 状況が理解出来ず、頭が白く染る。


「あの畑と同じだ。数人の村人の体が黒くなり始めたんだ」


「なんだって?!」


「お前さんたちも早く逃げた方がいい。魔女に殺される前にな」


 そう言って散策から帰って来たほかの商人の方へかけていく。


「一体どういうことなんだ……」


 色々とタイミングが悪すぎる。

 この事をメイシスは知っているのだろうか。

 いや、知らないだろう。


(元凶を倒しに行く方が先か、メイシスに会う方法を探るのが先か……)


 ここまで悩むのには理由がある。

 それは協力者がいないことだ。

 今までは役割を分配出来ただけでなく、共闘もできた。

 だが、今はユズルとユカリ、二人しかメイシスのことを知らない。

 メイシスを見つけたところで元凶を取り除かない限りその疑いは晴らせない。


(どうしてこのタイミングなんだ……ッ)


 だが、立ち止まっている暇はない。

 メイシスはこの村から出られないのだから。


「ユズルさん、私がメイシスさんに会いに行きます」


「会いに行くって、どうやって?」


「……もしかしたら地上に繋がる道があるかもしれません。地上からは見えませんでしたが地下に行った時、千里眼に写ったんです」


「っ!……どこなんだ?!」


「すみません、そこまで分かりません。ただしばらく使っていないようにも見えましたから、恐らく結界の外に通じているかと……」


「メイシスが完全に魔女になる前に使っていた道……ってところか」


「そうだと思います。方角は分かるので安心してください」


「じゃあ、まずはその入口を探しに行こう」


 ユズルの発言に「いえ、」とユリカが否定する。


「ユズルさんはこの事件の元凶を見つけてきてください」


「……一人で大丈夫なのか?」


「フォーラ村にいた間、私も密かに鍛えてましたから。自分の身は自分で守れます」


 ユリカの真剣な目を見ると、とても断れそうになかった。


「……そうか、メイシスのことはユリカに任せるよ」


「はい、任されました。ユズルさんもどうか気をつけて」


 そう言って二人はそれぞれ向かうべき場所へ向けて走り出す。


(必ずメイシス、お前を救い出す!)




「ここだな……」


 黒く染まった地面に沿うように走り続け、たどり着いたのは倒壊した城跡だった。

 その年季から見るに、生存戦争終結以前のものだと推定できる。

 その城跡から四方八方に黒い影のようなものが伸びていた。

 城跡の中を暫く行った先に、それはあった。


「なんだこれ……剣か?」


 城跡の中心には剣のような細長い棒が突き立てられていた。


(あれがこの影の元凶か……)


 突き刺さる棒に触れる。

 が、


「っ!なんだこれっ」


 触れた箇所が黒く染る。

 先程まで体に異変がなかったことから、この棒に触れたのが原因だと推定できた。


(多分、これを引き抜かないと元には戻らないよな……)


「誰だァ、てめぇ?」


「……っ!」


 声がした方を振り返ると、案の定そこに居たのは魔人だった。


(見る限り、貴族や王族ではなさそうだな……)


 だからといって決して油断できるわけでは無い。

 あやゆく村ひとつを破壊しえなかった実力者だ、舐めてかかれば死ぬのは自分だ。

 いままでどんな状況でもユズルの隣には仲間がいた。

 ボップやユリカ、もちろんキリヒトも。


(やれるのか、俺一人で……?)


 一人だと自覚した途端、恐怖や孤独感に襲われる。

 だが、相手を前に弱気になったらその時点で負けなのだ。

 ここまで来た以上、やるしかない。


(できる、できないじゃない。やるんだ!)


「オイ、人間!」


 魔人がユズルを睨みつける視線がいっそう強くなる。

 それに負けじとユズルも相手を睨む。


「俺は強ェぞ?」


「っ……」


 ダメだ、怯えるな。

 俺はこんなところで負けられないんだ。


「……勘違いしているようだから言っといてやる」


 魔人を睨みつけ、宣戦布告する。


「俺の方が、お前より強いッ!」




「……ここですね」


 村とさほど距離の離れていない森の中に、入口はあった。

 暫く使われていなかったようで入口付近には草が生い茂っていた。

 普通に人は見落とすことだろう。

 中を覗くと、暗く先の見えない通路が続いていた。

 その通路に一歩踏み出す。


(メイシスさん、どうかご無事で)


 ユリカは駆け足で通路を進むのだった。


<あとがき>

ここまでお読みいただき誠にありがとうございました!


そして、日間6位&週間30位ありがとうございます!


今まで約1年間伸び悩んでいたので、嬉しい限りです!


これからもよろしくお願いします!

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