表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第3章 地下の魔女編
28/186

第23話 最初の型



 ユリカによる本の解読に伴い、ユズルとユリカはメイシスと共に地下で生活することになった。

 二人にとっては宿代が浮くし、メイシスにとっても話し相手が出来てウィンウィンの関係だった。


 「集中したいから一人にして欲しい」というユリカの要望に答え、メイシスとユズルは部屋を出る。


「ユリカちゃんに翻訳してもらっている間に、貴方にローレンスの剣技を教えるわ」


 メイシスはユリカの事をちゃん付で呼ぶ。

 見た目のせいで忘れかけていたが、彼女は50年以上も姿が変わっていないのだ。

 メイシスにとってユリカやユズルは、孫のような存在だろう。


「ローレンス式抜刀術のことを指しているなら、既に──」


「違うわ、私が今から教えるのは初ノ型よ」


「初ノ型……?」


 ローレンス式抜刀術には壱の型から拾弐の型まで12の型で構成されている。

 ユズルもここまでしか知らない。

 いや、ここまでしか存在しないはずなのだ。


「初ノ型はローレンスが魔王に一撃を与えた技よ」


 だが、そんな話聞いたことがなかった。

 もちろん魔導書にもそのような記載はなかった。


「ローレンスは魔王と戦う事を見据えていた。だから、今まで他人に見せてこなかったの。文献に載っていない理由は、その型を知っているのがあの時、あの瞬間にあの場にいた者だけ。つまり今この技を知っているのは世界で私一人だけということよ」


「初ノ型……」


「初ノ型は名前の通り、ローレンスが初めて編み出した技よ。それ故に一番完成度が高いわ」


 メイシスに連れられて着いたのは、広い地下空間だった。


「何だ……ここ?」


「ここは私の魔法の実験場よ。崩れないように結界を貼っているから少しぐらい乱暴しても大丈夫よ」


「凄いな……」


 広い中にも、所々障害物となる岩や気に見立てた柱など実践を意識したフィールドが展開されていた。


「まずは貴方の実力を見させてもらうわね」


「ん?剣技でも見せればいいのか?」


 メイシスは頭を横に振る。


「ハリュシネーション・大熊」


「なっ……!」


 ユズルの前に一頭の大熊が現れる。


(何も無いところから、魔獣が生まれた?)


「貴方には今からこれと戦ってもらうわ」


 そう言ってメイシスはユズルから距離を置き、自分の周りにバリアを貼る。


「戦うって……?」


「そのままの意味よ。その大熊は幻覚魔法で作った本物そっくりの幻覚よ」


「グァァァァァゥウ」


 大熊が威嚇しながらユズルに覆いかぶさろうとしてくる。

 それを交し、体勢と呼吸を整える。


(要はこいつを倒せばいいんだよな?)


「ローレンス式抜刀術壱の型、」


 剣の柄に手を添える。

 目の前の幻覚は本物同然。

 以前フォーラ村までの道のりで大熊と戦った時のことを思い出し、緊張感が汗となって額からこぼれ落ちる。


「煌龍!」


 アルバ村で暴龍を倒した技を繰り出す。

 だが、あの時とは威力も完成度も段違いだった。

 剣を覆うように光の粒子が集まり出し、剣を握るその手が重くなる。それに引き換え剣は加速し続ける。


「グァァァァ!!!」


「はぁぁぁぁあ!」


 大熊の腕を掻い潜り、一撃で核を破壊する。

 大熊は煙となって虚空に消え失せた。


「……いい完成度ね」


 メイシスがバリアを解き近づく。


「これからユリカちゃんが翻訳を終えるまでの間、ここで私と稽古して貰うことになるわ。初ノ型を習得も兼ねて、ね」


「本当に助かるよ」


 当初の予定では、ユリカと共に周辺の魔獣を討伐する稽古を行う予定だった。

 そのため、ユリカが翻訳をすることが決まった時、どうやって稽古をするのか考えていたのだ。

 だが、こうして機会を得られたことはユズルにとって有難いことだった。


「私も50年間無駄に生きていたわけじゃないわ。初ノ型を分析して要点をまとめたわ」


「おお!」


 メイシスが"エンボースド・レターズ"を唱え再び光の線が現れ始める。


「これがその時の再現よ」


 その映像を見てユズルは言葉を失う。


 ああ、なんて美しい剣技なんだ、と。


 ローレンスの剣技は無駄ひとつない完成された剣技だった。とても今のユズルには再現できない。


「これに似せる必要はないわ。というか無理よ」


「だろうな……」


「あくまで要点だけを覚えればいいわ。今の映像をゆっくりと再生するから記憶に刻みなさい」


「分かった」


 何度見ても美しいその剣技に思わず魅入ってしまう。


「この術を常中発動させておくから参考にしていいわよ」


「そんなことができるのか?」


「忘れたのかしら?私、魔女よ?」


 その言葉に何処か心が痛む感じがした。

 結局その日は初ノ型のしょの字も出来ずに幕を閉じた。


 ウィズダ村に来てから10日がたとうとしていた時、事件は起きた。




 ユリカは相変わらず朝から翻訳のため部屋にこもり、メイシスは地上に買い物へ、ユズルは初ノ型を習得するために稽古に励んでいた。


(どうやったらこの速度が出せるんだ……)


 全体の動きはおおよそ分かったのだが、体勢的に速度を出すのが難しく一向に完成しない。

 それだけではなかった。


(攻撃範囲が広すぎる……こんな距離、助走をつけても無理だ)


 見る限りローレンスはたった一蹴りで20mは確実に飛んでいる。

 メイシスによると、その時は彼女と聖女アリアの身体強化が付与されていたという。

 それでもせいぜい10mが限度のはずだ。


(この速さにこの跳躍力……流石としか……)


「とりあえず型から離れて跳ぶ練習から始めるか」


 一旦練習場から離れ水分補給に向かう。


 ガサッ


(……?メイシスが帰ってきたのか?)


 音が聞こえた方へ歩みよる。

 するとそこにはボロボロの布を羽織るメイシスの姿があった。


「っ、どうしたんだ?!」


「……っ」


 彼女はその場に座り込みかすかに声を漏らす。


「……私が魔女だと言うことが、村の人にバレたわ」


「え……」


 突然の出来事にユズルはただ黙ることしか出来なかった。




 ユリカも手を一旦止めて居間に集まり、メイシスから事情を聞く。


「何があったんだ?」


「……移動商人の護衛で着いてきていた聖職者(パストール)に、私が魔女だと気付かれてしまったの」


 話によるとその聖職者に詰め寄られ逃げたところ、強引にフードを剥がされ商人たちの前で顔を見られたという。


「私の噂はすぐに広まるわ。もう私は地上には出られない」


 メイシスの言葉に二人は息を飲む。


「魔女とバレてしまった以上、私と一緒にいると貴方達に迷惑をかけるかもしれないわ。今までありがとう、もう私のことは大丈夫よ」


「ちょっとま──」


 その言葉は届かず、ユズルとユリカは地上へと転送される。


「っ!」


 ユズルは広場へと走り出し噴水に飛び込む。

 が、


「くそ!なんで入れねぇんだ!」


 かつての入口はどこにもなく、ただ静かなる噴水がそこにたっているだけだった。


 この日を境に、メイシスとの連絡は途絶えた。


<あとがき>

ここまで読んでいただき誠にありがとうございます!


これからもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ