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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
最終章 生存戦争編
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第174話 竜の子帰還

【セイラ視点】


 妖精(フェアリー)(・ダンス)りは、極めて個体数が少ない種族である妖精の飛ぶ姿が、他種族を寄せつけない可憐さと身軽さである事からその名が付いた一種の技である。

 他と違うことといえば、鍛錬して身につくものでは無いということだ。

 現存する妖精に認められ、その身体に証を授かったもののみが扱うことの出来る代物なのだ。

 いついかなる時代も、武を極めし者たちは妖精の力を求め世界を旅した。

 が、妖精の元にたどり着けるものはほんの一握り。

 それもそのはず、これまでに観測された妖精の数は この500年でたった140体だけなのだから。

 それにたとえ出会えたとして、その証を授かることが出来るかどうかはまた別問題である。

 故に妖精の踊りの習得者は、その時代において象徴的な役割を果たしてきた。

 聖王レオンもその1人だ。

 そして今の時代にも、妖精の踊りを習得した者がいる。

 それも3名。

 彼らは妖精達の住処を奪還し、その功績を称え証を授かった。

 一人は、名をユリカという。

 彼女は悪魔と王族の混血という逃げられぬ運命を背負う者。

 しかし、血統を除けばその実態はただの心優しき少女。

 彼女に命を救われた者は少なくない。

 そしてこの生存戦争においても、人類の為最前線で戦うことを選んだ。

 その姿は、証を授かるに相応しいだろう。

 二人目は、ユズルという少年……、その正体はかつて魔王に挑んだ英雄ローレンスであり、大精霊 カマエルでもあった。

 彼の人生は、これが一度目ではない。

 その全てが、決して楽な旅路ではなかった。

 姿が変わる度に、記憶も地位も全てを失い、それでも前に進み続けた。

 彼の意志の強さは、妖精達の心をも動かした。

 そして三人目は、


「セイラ!なるべく物陰に隠れて戦え!」


 セイラというエルフの女性だった。

 彼女はずっと、濃い霧の中で彷徨っていた。

 抜け出すことの出来ない檻の中で、自分の人生に抗うために戦った。

 逃げ出さない、簡単なようで最も困難な選択の答えを、妖精達が正しいと評価するかのように。

 彼女は証を授かった。

 そしてその証は彼女に、さらなる力を与えたのだった。


「さっきのは一体……」


 アーノルドの問いかけに、セイラ自身も困惑していた。

 セイラの撃った矢は、デスピアスの生み出した転送次元をかわすように分散し再び矢を構築した。

 その結果、指一本触れることの出来なかった彼女に、初めて有効打を与えることが出来たのだ。

 上空を見上げると、眉を吊り上げ苛立ちを顕にしたデスピアスがこちらを見下ろしていた。


「おそらく、妖精の力だわ」


 矢を撃つ瞬間、一瞬だが腕に刻まれた妖精の証が光を発した様に見えた。


「それは常中使えそうなのか?」


「……ごめんなさい、分からないわ」


 せっかく逆転の糸口が見えたというのに、セイラは原理も、そもそも妖精の力のおかげなのかさえも分かっていなかった。

 けれど、アーノルドは気にするなと首を振った。


「間違いなく、セイラ。君が我々に残された最後に希望だ。私たちは全力で君を守る。だから、何も気にせず答えが見つかるまで好きなように動いてくれ!」


 その言葉に、セイラは力強く頷いた。

 幸い、向こうから攻撃を仕掛けてくる様子は無い。

 それならいつかは答えにたどり着くはず。

 ……そう思っていた。


「うわぁぁぁあ!」


 少し離れたところから、兵士の悲鳴が聞こえた。

 先程のように、転送次元が兵士たちを飲み込み始めたのかと視線を向けた。

 だが、その逆だった。


「あれって……魔獣?!」


 そう、転送次元から魔獣が次々と現れ始めたのだ。

 一つだけじゃない。

 無数の転送次元から同時に、大量の魔獣が姿を現した。


「まずい、これでは……っ」


 守りきれない。

 アーノルドの額に汗が滲む。

 もうほとんどの兵士が戦闘不能に陥っている中でのこの状況に、もはや答えを探っている猶予などなかった。

 焦る手元は標準を定める事さえままならない。

 近くにいた兵士を助けるため、アーノルドがセイラの元を離れたその刹那。

 セイラの目の前に現れた転送次元から、魔獣の群れが這い出てきた。


「しまっ──」


 いくらアーノルドでももう間に合わない距離。

 魔獣の腕が視界を覆う。

 セイラは強く目を瞑った。

 暗闇の中で、一瞬何かが光った気がした。


「── (ドラゴンズ)拳骨(・フィスト)!」


 爆風がセイラの身体を包み込む。

 セイラに魔獣の腕は届かなかった。

 風が止み目を開けるとそこには、


「ここまで耐えてくれてありがとう」


「ミカエラ……?」


 竜王の巫女 ミカエラの姿があった。




 遡ること数十分前。

 ミカエラは王族階級第5位であるハルシュタットを下した。

 ハルシュタットの核が破壊された瞬間、ミカエラの身体は王城一階のあの広間の前に転送されたのだ。

 恐らく発生条件はハルシュタットの討伐。

 きっと同時に飛ばされた彼らも同じようにそれぞれの相手を倒すことで自動的にここに戻って来るという仕組みなのだろう。

 辺りを見渡すが、ユズル達の姿はない。

 が、


(あれって、ワープの魔人よね……?)


 広間へと続く廊下の影から広間の中を覗く。

 すると広間にはあのワープの魔人と、数十名の兵士の姿が見えた。


(私たちが飛ばされたあとも、彼らはここで戦っていたということ……?)


 もしそうだとしたら、今この瞬間もユズル達は戦っているということになる。

 誰がどこで戦っているかは分からない。

 だが、


(勝てばここに戻ってくる……ということよね?)


 ミカエラがそうだったように、きっと。

 ふと、別の可能性が頭をよぎる。


(もし、先に彼女(デスピアス)を倒したら……?)


 一斉に全員がここに戻される?

 誰も戻って来れなくなる可能性もあるのではないか。

 何も分からない以上、迂闊に手は出せない。

 と、その時だった。


「うわぁぁぁぁああああ!!」


 広間から悲鳴が聞こえたかと思えば、次の瞬間、中にいた兵士たちが一斉に広間から駆け出して来た。

 まるで何かから逃げるように。

 急いで中の様子を除くと、なんと巨大な転送次元が兵士たちを次々と飲み込んでいくのが見えた。


(まずい、このままでは……っ)


 今出ていっても、何も出来ない。

 それなら、機会が出来るまで身を隠しておく方が懸命である。

 ミカエラはぐっと堪えた。

 だが、駆け出した兵士の群れは止まることを知らず、広間内の戦力はほぼ皆無に等しい程無力化されて しまっていた。

 もう、行くしかない。

 そう覚悟を決め一歩踏み出そうとした時だった。

 セイラが叫んだのは。


「恐怖に勝てとか、誰かの役に立てとか、そんな事は言わない。逃げることは時には正解な時だってある」




「ミカエラ……?」


「ありがとう、ここまでみんなを導いてくれて」


 セイラに感謝を伝え、ミカエラは魔獣の群れに突進する。


(ドラゴンズ)拳骨(・フィスト)!」


 ミカエラの拳が一閃、魔獣の群れはまるで蜃気楼かのように爆散し消えていった。


 ミカエラの合流により、戦いは最終局面へ──。

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