表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
最終章 生存戦争編
183/188

第169話 再戦

【ユズル視点】


 この邂逅は、ユズルにとって好都合だった。

 ユズルが剣を握った理由は、復讐だった。

 幼き頃、目の前で失った二人の親友。

 彼らの仇を取るために、ユズルは結界を出た。

 しかし、真実は違った。

 ユズルの正体はローレンス。

 それを知った時、結界を出たのは必然であり、決められた運命なのだと悟った。

 その瞬間、ユズルは分からなくなってしまった。

 ローレンスとしての自分を、精霊王 シエルとしての自分を思い出していく度、ユズルとしての人生はちっぽけで、長い人生の中のほんと一瞬に過ぎなかったのだと感じてしまっていた。

 それに気づいた時、ユズルは戦う理由が分からなくなってしまった。

 結局は人類のため、復讐なんておまけに過ぎない。

そう思った時、ユズルの中で渦巻いていた闘志が薄れていくのを感じた。

 もう、今までのように剣は振れない。

 これまでのような、命を燃やすような戦いはもうできない。

 そう思っていた。




 しかしその考え方は、根本的に間違っていたのだ。




 戦う理由なんて、もっと自己中心的でいいのだ。

 これだけ長い月日を生き、忘れていた。

 ユズルが剣を握る理由なんて、復讐でいいのだ。

 他に、何も要らない。

 そう思った時、心が軽くなるのを感じた。

 自分を縛り上げていた枷が外れるような感覚が身体を伝い、力が湧き上がってきた。

 今から始まる戦いは復讐劇。

 醜くも自己中心的な復讐劇。

 リアとマコトを殺した魔王への、そして、


「アーロン、お前の仇は俺が取る」


 大切な友人を殺した、この(クロセル)への。


「これから始まるのは、復讐劇だ!」


 ユズルがシュバリエルを構える。

 緊迫した空気が流れる状況。

 しかし、クロセルは笑っていた。


「復讐劇……?あぁ、そうだこれは復讐劇だ……」


「……っ」


 ユズルは軽く一歩後退りをした。

 なぜだろうか、クロセルの笑い声を聞くと無性に身の毛が弥立つ。


「僕から君に対する、復讐劇だ……」


 クロセルの発した言葉が理解できなかった。


「誰から誰への復讐劇だって……?」


「分かるだろ、僕から君にだよ。君のせいで僕の人生は、めちゃくちゃだ。僕、弱い者が嫌いだと君に言ったはずだよね?なのに君のせいで僕は……僕は……」


 ユズルには、全くもって身に覚えがなかった。

 少なくても、アイアスブルク辺境伯領での戦い以降、一度も会っていない。


「君一人を始末できなかった、そのケジメで僕は王族階級を追放された。君のせいで僕は、最も嫌いな存在になってしまったんだ」


 ユズルを恨んでいる理由は理解出来た。

 それが彼を突き動かす原動力であることも。


「でも君には感謝してるよ。君のおかげで僕は、ここまで成長できたのだから」


「……奇遇だな、俺も今の状況には感謝してる」


 双方の眼光が火花を散らす。

 お互い、自分の為に、自分の考え方を最優先で剣を振るう。

 この戦場には、復讐を誓った二人の怒れる猛獣以外存在しない。


「自らの手で復讐を果たせるんだからな!」


「妥協は要らない、全力でこい!」


 ユズルは力を欲し、全身の力を左脇腹に全神経を集中させる。

 やがて血が騒ぎ出し、肉が踊り出す。

 ユズルを映す影が、姿を変えていく。


「……驚いたよ。まさかその力を、自分のものにしてしまうなんてね」


 変わり果てたユズルの姿を見て、クロセルの口元が苦笑いをうかべる。

 二年前、ユズルはクロセルの前で魔人化の力が暴走し、自我を失った。

 ユリカとシュバリエルがいなければ、あのまま暴走し国を滅ぼしていたかもしれない。

 それだけの力を、ユズルは自らのものにしてしまったのだ。

 もう二年前とは、違う。


「そっちがその気なら、僕も最初から行かせてもらおう」


 クロセルの身体を、黒い靄が覆う。

 あの日の光景が今、目の前に蘇る。


「──覚醒(デーモニゼーション)


 一触即発の状況で、最初に動いたのはユズルだった。


「抜刀術改 炎炎拡散!」


 クロセルの扱う魔法は氷属性の黒魔法。

 ならばこちらは、弱点である炎を纏うのみ。

 しかし、


「……なんて軽い炎なんだ」


 クロセルは一切怯む事無く、剣を軽く振り下ろす。


魔氷(グラシエル)断絶(・サイス)


 クロセルの振り下ろした剣先は、ユズルの額わずか数センチの所で動きを止めた。

 身体の前に構える二双の剣が、クロセルの刃を止めたのだ。

 いや違う、先に攻撃を仕掛けたのはユズルだ。

 これは止めたのではなく止められた。

 もっと言えば、返されたのだ。

 弱点を付いたにも関わらず、だ。


「いくら君が成長していたとしても、種族の壁は越えられない。そもそもの土俵が違うんだよ」


「ぐっ……」


 徐々に抑え込まれ、剣先が目の前まで迫る。

 押し返そうとする剣がガタガタと刃こぼれする様な音を響かせていた。

 このままでは、剣の方が持たない。

 冷や汗が、頬を滴る。


「君の師匠は、剣をぞんざいに扱うような人だったのかい?」


 クロセルが発した言葉に、ユズルはハッとした。

 ボップは決してこんな剣は教えていない。

 師匠から教わったのは、もっと優しくて敬意のあるそんな剣だ。

 呼吸を整える。

 スーッと静かに剣を引き抜き体を捻る。

 反動をつけ、剣をしならせる。

 あくまで力を込めるのは振る瞬間ではなく、触れる瞬間。

 当てるのではなく、吸い寄せるように打つ。


「究ノ型 細波!」


 剣先は確かにクロセルに届いた。

 しかし触れるや否や、その剣は動きを止めた。


「僕に水分を含む魔法を仕掛けるとは、舐められたものだ」


「……っ!」


 押しても引いてもビクともしない剣。

 その剣の大部分を、溶けることの無い永久凍土が覆い込んでいた。


「残念だよ、ユズル」


 全身に侵食を巡らせる。

 が、もう遅かった。


魔氷(グラシエル)絶剣(スレイド) ──」


「──あ」


 ザンッ、という音と共に宙を舞う肉片。

 紅い鮮血が、視界を赤く染める。


「もう、剣は握れまい──」


 地面に落ちる左腕。

 それが誰のものか、説明する必要もなかった。


「ぁぁぁぁあああ……ッ!!」


 洞窟内に響き渡る絶叫。

 今このときを持って、剣士ユズルの生命線が絶たれたのだった──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ