表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
最終章 生存戦争編
182/188

第168話 ミカエラvsハルシュタット

【ミカエラ視点】


「ミカエラ、ごめんなさい。貴方を1人にしてしまって」


「ここまで良く頑張ったね、ミカエラ」


 2人の竜人がミカエラを迎い入れようと腕を広げる。

 その胸に、ミカエラは走り寄る。

 親子の感動の再会。

 もう二度と会えないと思っていた。

 募る想いは爆発し、涙の雫となって頬を伝う。

 走り出したミカエラの足は止まらない。

 そして両親の胸の前まで来て、



 ピタリと足を止めた。



「どうしたんだい、ミカエ──」


(ドラゴンズ)拳骨(・フィスト)!」


 両親の顎下目掛けて一拳。

 岩をも砕く一撃が炸裂する。

 ミカエラの拳に、触れた感覚は無い。

 ミカエラの推測は、確信に変わった。


「あまり舐めないでもらえるかしら!」


 振り払った拳が、目の前の虚影を断ち切った。

 両親だったものはただの霧となり、目の前から姿を消した。

 その霧の向こうに、奴はいた。


「貴方、ハルシュタットね」


「大した精神力だねぇ……」


(エリカからの事前情報がなければ危なかった……)


 この魔法を見切ったのは強靭な精神力や才能によるものでは無い。

 事前に知っていたから対処出来た、それだけでミカエラにこの魔法の耐性がある訳では無い。


(なんで私の相手って毎回、こんな奴ばっかりなのかしら……っ)


 ミカエラはため息をつく。

 拳で争えば、ミカエラの右に出るものはほぼ居ない。

 種族の中でも最強格にある竜人族で、竜王に次いでの強者だ。

 そう簡単に負かせる相手ではないだろう。

 カトルの時と言い、不運にも普通の殴り合いが通用しない相手と対峙し、ミカエラは少し苛立ちを感じていた。

 これが自分の仕組まれた運命だと思うと、心底怒りが煮えたぎってくる。

 その熱きものは、龍の伊吹となって吐き出された。


「いきなり伊吹(ブレス)とは、竜人は行儀が悪いねぇ……」


「どうせその身体も偽物なんでしょ」


「……気づくねぇ……」


 言葉通り、ハルシュタットの身体は幻影と同じく霧となって消え、渓谷はまるで音のない世界かのような沈黙に包まれていた。


(この空間自体、幻影なんてことは無いわよね……)


 どこまでが実物なのか、もはや気にしている段階では無い。

 既に相手の手のうちが分かっているなら、それに順応していくだけである。


(恐らく物理攻撃は有効打ではないわね……)


 ミカエラは息を整える。

 それは身体を動かすための準備運動ではなく、魔力をコントロールするための呼吸だった。


「魔法は苦手なのよね」


 そう言い、ミカエラは空に羽ばたく。

 上空から見下ろしても、ハルシュタットの姿は見えない。

 否、それが彼の居場所の答えだった。


「竜の伊吹!」


 ミカエラの伊吹が家屋を燃やし、大地を焦がす。

 そして、見えないはずの敵が、炙り出される。

 姿が見えないだけで、彼は最初からずっとそこに居た。


「姑息な手は通用しない、か。実に興味深いねぇ……」


「隠れても無駄だから!」


 ハルシュタットとミカエラ、双方向かい合い視線が火花を散らす。

 と言っても、相手の動きを警戒している訳ではなかった。

 彼が本体なのかどうかの見極めが出来ない以上、視線は向けど神経は全方向に集中していた。


「……っ!」


 僅かに、背後に気配を感じた。

 振り返るがそこには何もいない。

 またしても姿を隠していると感じたミカエラは、伊吹を放つ。

 しかし、放った先には何も無かった。

 それどころか、気配は増殖し、ミカエラを四方から囲いこんだ。


「まさか……幻影にも気配があるっていうのっ……?」


「さぁ、ねぇ……?」


 実体と同じように動く影、しかしその身体は透けミカエラの拳は当たらない。

 ミカエラの中で、なにかが吹っ切れた音がした。


「そっちがその気なら、私にも案があるわ」


 ミカエラの全身を、深紅の炎が包み込む。

 まるで武装するかのように絡みついた炎はミカエラの硬く鋭い鱗に吸収され、赤い紋章が額から足先まで伸びる。

 まるで、竜王の若き頃を彷彿とさせる姿に、ハルシュタットも動きを止めた。

 魔人に感情は存在しない。

 しかし、ハルシュタットは今確実に、恐怖を感じていた。

 それが自分のものでは無いことも、気づいていた。

 これは、ハルシュタットが恐怖を感じているのでは無い。

 ハルシュタットの中に流れる魔王の血が、恐怖に震えているのだ。


「君は竜王、なのかい……?」


 ハルシュタットの問に、ミカエラは尾を地面にたたきつけ否定する。


「私は──」


 地面に亀裂が入る。

 深紅の炎は火柱となり、ハルシュタットの前に立ちはだかった。


「私は、竜王の巫女──」


 その柱が傾いたかと思うと次の瞬間、ハルシュタットは壁に打ち付けられていた。

 否、今目の前にいたのは確かにハルシュタットではなかった。

 本体が生み出した幻影に過ぎない。

 しかし、ミカエラが殴ったのはその幻影では無い。

 見えない本体を見つけ出し、拳を打ち付けたのだ。

 ハルシュタットは、たった一撃で核を破壊され虚空へと消えていった。

 長く険しい戦いになると予想されたこの一戦は、ミカエラの放ったたった一振の拳によって幕を閉じたのだった。


 ミカエラvsハルシュタット


 ハルシュタットの核破壊により、ミカエラ勝利。

 人類側1人目の、勝者となるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ