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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第2章 結界都市陥落編
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第15話-2 約束



「これで六人か」


 アイバク団長と別れてから約10分、五人の団員と合流することが出来た。


「一応みんなにも現段階で分かってることを共有しておこうと思う。アイバク団長は今、今回の件の主犯と戦っている。見た感じ魔人だったと思う」


「なんだって!」「なんで魔人が……」


「俺も今になって驚いてる。けど、魔人の仕業ならこれが事故じゃなくて計画されたことなのが分かる」


「一体何が目的なんだ……」


「それは分からない。だけど村長が魔人に殺された」


「村長が!?だから結界が解かれたのか?」


「正確には村長が死ぬ前に解かれたみたいだけど、村長が亡くなった今、結界の修復はほぼ困難だと思う」


「何故だ?エリカさんに継承されたんじゃないのか?」


「それが……団長曰く、継承したのはエリカさんじゃなくてティアナらしいんだ」


「「「「「なっ?!」」」」」


 その場にいた全員が大声をあげ驚く。


「それもあってエリカさんの安否が確認したい。だからエリカさん達のところに向かってくれる人が欲しいんだけど……」


「俺が行こう」


「……一人は危険だ、俺もついて行く」


 そう言って二人名乗り出る。

 二人とも腕が経つ兵士だ、安心して任せられるだろう。


「それじゃあ俺たちは引き続き救助活動を続けよう。……と言いたいところなんだが」


「まだ何かあるのか?」


「いや、少し団長の方が気がかりで……」


「あの怪物の何が心配なんだ?」


 その一言でその場に笑いが生まれる。


「まあそうなんだけど、団長はティアナ達と一緒にいたわけじゃないんだ」


「じゃあティアナはどこに?」


「それが分からないんだ。だけど団長が村人を地下通路に誘導するよう指示してきたから、おそらくティアナたちもそこに向かってると思う」


「ティアナをひとりにしちゃまずいよな」


「一応キリヒトもいるみたいだけど……」


「あいつも団長の子ってだけでまだ幼い子供だ。俺たちが守ってやんねぇと」


「……そうだな」


「たまにはあいつにもいいとこ見せなきゃな」


 次々と賛成する声が上がる。


「……それじゃあ行こうか!お互い気をつけて!」


「ああ!」


 エリカさんの所へ向かう二人に別れを告げ、四人はティアナの元へと向かった。




「リフレクション!」


「アァァァァァァァアア!!!」


(力が、入らんッ!)


「っは!くぅ……」


 魔力を込めるだけで体が痛むためまともに攻撃できない。

 それだけでなく防御魔法もこうしてままならない状況だ。


(意識が……)


 風が体にかするだけで痛むほどの毒を受けたにも関わらず、暴龍の一撃を受けきることが出来ずに建物の壁に叩きつけられる。

 常に痛みが来るため、気絶すら出来ない。

 それに外傷がダメージに見合わなく浅いため死にきれない。

 もっとも死ぬつもりは無いが。


(こんなのが続いたら、いくら俺でも……)


 いくら人間離れをしていようと、アイバクも一人の人間だ。

 心が、精神がある。

 次の一撃が来る。だが口が動かない。


(すまない、みんな……)


「──っ、間に合え!」


 遠くから聞き覚えのある声が聞こえた気がした。

 かすれる視界に映ったのは、暴龍と──、


「やっぱり戻ってきて正解だったッ!」「団長!」


 咆哮しようとする暴龍の顎をしたから突き上げ阻止する。

 それと同時に他の団員が近寄ってきた。


「大丈夫ですか?!一体何が……」


 近寄ってきた団員がアイバクを抱きあげようと肩に触れたが、


「くぁっ!」


「す、すみません!痛みましたか?」


「いや……毒を受けた……感度が上がっているようだ」


「じゃあ、どうすれば……」


「俺の事はいい!お前らは……」


 キリヒト達を追え、そう言いかけて口を噤む。

 方法はなんであれ、俺を瀕死状態にするほどの敵だ。

 こいつらが無事で済むとは考えにくい。

 そんな危ないところに兵を送るのは気が進まなかった。


「……団長?」


「…………この先の道を曲がったところに呪術師の店がある。そこから解毒剤を取ってきてくれないか……」


「解毒剤ですね、分かりました!」


 そう言って走り去る。


(この解毒剤が効かなければ、もう……)


 アイバクが倒れてからもうかなり時間が経っている。

 二人は無事地下通路に辿りつけただろうか。


(できるだけ時間は稼いだつもりだが……そういえば……)


 別れ際に魔人が言っていた「時間稼ぎ」とは一体何なのだろうか。

 だが、今のアイバクにそんなことを考えている余裕はなかった。


(勝てるかもしれない戦いと、勝てるはずがない戦いは天地の差がある……。個人で戦う分にはさほど関係がない。むしろ、そこで引いたものが敗者と言えるだろう)


 場合によるだろうが、少なくともアイバクは今まで敵に背を向けたことは無かった。


(しかし自分以外の命がかかっている場合は話が変わってくる。自分勝手な行動は許されない。故に、例え勝機がある戦いだとしても万が一のリスクがあるならば引かなければならない)


 今回のケースは後者だ。

 よってこれから先さらに不利な状況になった場合、引かなければならないのだ。


「アァァァァァァァアア!!!」


「くっ!やはり物理攻撃は通らないか」


 アイバクから注意を引くために三人の兵士が暴龍と交戦している。

 戦況は一転して変わらず、討伐には至らない状況が続いていた。


「団長!戻りました!」


 とそこに呪術師の家へ薬を取りに行った兵士が帰ってきた。


「どれだか分からないので取り敢えずそれらしきものを持ってきました、すみません」


「いや、これで合っているはずだ。ありがとう」


「良かったです、──っ!」


「ァァァアア!!!」


「っ!一旦引くぞ!」


 アイバクが薬を手にした瞬間暴龍が激しく咆哮する。

 先程までとは何かが違う。

 最初に動いたのは最初にアイバクと合流した兵士だった。


「……打ってどうにかなるか分からないけど」


 空へと信号段が打ち上がる。

 気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。


「……てくれ」


「……団長?」


 アイバクの口から声がこぼれる。


「お前らはキリヒトたちを追ってくれ!」


「っ!」


 その声に兵士がみな振り向く。


「団長は、どうするんですか!」


「俺の代わりなんていくらでもいる!俺なんかより今はティアナの方が大事だ!」


「そんなこと言っても……」


「フォーラム騎士団がこの村を守らないで、誰が守るんだ!」


「っ……!」


「やつは明らかにさっきとは違う!こんなところで時間を食っている場合じゃないんだ、一刻も早くティアナ達を安全な場所に避難させてくれ!」


「……」


「お前らも立派なフォーラム騎士団の一員なら、村のみんなのことを最優先に考えて行動しろ!」


 その言葉を聞いて皆の顔色が変わる。

 そして、


「……団長、どうかご無事で」


「…………ああ」


 そう言って走り去っていった。

 ぼやける視界でその後ろ姿を見送る。


(後はあいつらに任せる……)


 ティアナの、騎士団の兵士達の、そして最愛の息子キリヒトの無事を祈ってその瞳を閉じた。




「やはり既に攻撃されていたのか……」


 エリカさんの無事を確認しに来た二人が目撃したのは、護衛兵の死体の山だった。


「こんだけの数、魔獣の仕業だとしたら相当な強さだぞ……」


 護衛兵は少なくとも20はいただろう。

 それが一人残らず殺されているのを見ると、かなりの強敵であることは確かだった。


「……妙だな」


「何がだ?」


「ああいや、」


 少し離れたところで探索をしていたもう一人の兵が眉を顰める。


「お前、エリカさんの死体を見たか?」


「……そういや見てないな」


 死体の山といっても、外傷は浅く誰だか判別できないほどでは無い。

 むしろ、急所を理解して殺されたようにも見える。

 それにもかかわらず、エリカさんの姿はそこにはなかった。


「急所を理解して殺されたとしたら、連れ去られた可能性もあるな……」


「それはありえないだろ!だってもし魔人の目的が村長の殺害なら真っ先に村の中心に向かうはずだ。こんな村のハズレにある基地を襲うはずは無い!それに、もしそうだとしたら……」


 唇が震える。

 基地の位置の把握、傷口の巧妙さ、エリカさんの失踪、それだけで魔獣の仕業じゃないことは分かっていた。


「……誰かが魔人に手を貸している、ということか?」


「その可能性がある。まだ決まったわけじゃないけど、この場所がわかっている時点でかなり黒だと思う」


「……ここからどうする?」


 エリカさんの行方を探すという選択もなくはない。

 だが、見つかる保証はどこにも無い。


「……とりあえず周囲の救助を、……待て」


「どうかしたか?」


 基地から出てきた二人が目にしたのは、一本の細長い煙、信号弾のサインだった。


「向こうでなにかあったようだ、行こう」


「…………………ああ」


「どうしたんだ、今は休む時じゃ……」


 声が消え、地面へと崩れ落ちる。

 その瞬間、全てを理解した。



 こいつが黒だ。



「……お疲れ様、ゆっくり休むといいよ」


「っ、お前、だったのか……っ!」


 赤く染まる視界の中で、先程まで共に行動していた兵の顔が笑っていた。


「……長い夜になりそうだ」


 そう言って歩き出す。

 その背中を睨みつけて叫ぶ。

 最後の力全てを、憎悪感と共に吐き出すように。


「裏切り者がっ!!!」


 その言葉を聞いて足を止める。


「裏切り者?ふふっ」


 気味の悪い笑い顔を浮かべ、なめ腐った表情を向けた。


「君たちの仲間になった覚えはないが?」


 そう言い残してその場を後にした。


<後書き>

2000アクセス本当にありがとうございます。

実はまだ物語の1割程しか進んでないので、これから月2話投稿を目指して頑張っていきたいと思います。

これからもよろしくお願い致します。


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