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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
最終章 生存戦争編
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第165話 キリヒトの復讐

【キリヒト視点】


「お前のような手負いの者が、なぜこんな前線におる?ははっ」


(くそっ!こいつとあいつじゃ実力が違いすぎる……っ)


 戦闘が始まって約1時間。

 キリヒトは劣勢を強いられていた。

 戦闘開始直後、戦況は今と全く逆だった。

 というのも、ベルゼバブと名乗る魔人は、かつてユズルと共に倒したベルゼブブと全く同じ戦闘スタイルだったのだ。

 手の内が分かっている、しかも1度勝利している敵にキリヒトは優勢に戦闘を進めていた。

 だがしばらく経ち、違和感に気づく。

 確かに手の内は理解している。

 それにキリヒトが一方的に仕掛けているため優勢にも見えた。

 だが、当たらないのだ。

 剣は確実に彼女を捉えているのに、一切触れることなく空振り続けている。

 それに気づいた時にはもう、遅かった。

 ベルゼバブはまるでキリヒトに理解させるための時間を設けましたと言わんばかりに先程とは打って変わって攻めの姿勢に入り、あっという間にキリヒトは地に伏してしまった。

 そして知ることになる。

 手の内を知っていたのは、自分だけではなかったのだと。


「ベルゼブブは我の分身、故に五感だけではなく記憶や感情までもが共有されておる。貴様のことは誰よりも我が知っておるのじゃ」


 その言葉通りキリヒトは押され続け、今に至る。


「はぁ……はぁ…」


(最初にクリストロン装置を吹かしすぎてもう魔力がほとんど残ってねぇ……)


 魔力がなければ、キリヒトの機動力はほぼ0にまで落ちる。

 目の前にいる魔人と同じ顔をした奴に奪われた足が、再戦の今にまで響いている。


「見るからにもう魔力切れだろう?魔力がなければ貴様はまともに歩くことすらままならない。そうだろう?」


 ベルゼバブの言う通りだ。

 魔力さえあれば、まだ戦えるのにと歯を食い占める。


(そもそもこの場所の魔力濃度が低すぎる……っ。この程度で魔力切れを起こすほどヤワなものじゃ……)


 その瞬間、キリヒトの脳裏にある事が浮かぶ。

 それはここハルク村で、ベルゼブブの戦った時の記憶。

 確かやつはここに魔法陣を引き、キリヒトとユズルを苦しめた。

 本当にベルゼバブが彼女の分身体なら、同じことが出来ても何もおかしくは無い。


「まさか……」


「ほう?その表情は気づいたのかのう?」


 ベルゼバブは正解だと言わんばかりに嘲笑する。

 盲点だった。

 最初から奴は正面から戦う気がなかった。

 簡単な話だ。

 魔力が無ければ戦えない相手なら、魔力切れを待てばいいだけなのだから。


(いや、まだだ。ヒーリング・キルさえ命中すれば、やつから魔力を奪える……っ)


 奴を上回る速度を出すためには、今自分に残っている魔力を全て出し切る必要がある。

 つまり外せば次こそキリヒトの敗北が決まる。


(躊躇うな。失敗した時のことなんか、今は考えるな)


 雑念を取り払い、キリヒトは地面を強く蹴る。

 速度に全振りするため、魔法は使わない。

 ただ剣先で敵を狙い、全速力で突っ込むだけだ。

 荒々しい技。

 騎士団長として剣の技を磨いてきたものとは思えない捨て身の攻撃。

 だがそんなことを気にする必要なんて、何処にもない。

 屋根上に立つベルゼバブの懐めがけて、キリヒトは跳躍した。


(ヒーリング)しの一撃(・キル)!」


 全魔力を込めた一撃は、ベルゼバブを射止めた。

 避けられなかったのか、はたまたあえて喰らったのか。その真相は分からない。

 キリヒトはベルゼバブから魔力を吸い取ることだけを考えていた。

 技は無事に決まった、魔力さえ吸い取れれば逆転出来るかもしれない。

 だがそんなキリヒトの期待は、一瞬で崩れ去る。


「……え?」


 違和感は、一瞬にしてやってきた。

 ベルゼバブの身体には、魔力がなかった。


「言ってなかったかの?妾の身体には血も魔力も通ってはおらん」


 ベルゼバブの身体から剣が抜け、地面に落ちる。

 もう、受身を取る魔力さえ残されていなかった。

 地面に叩きつけられた衝撃で、脳が揺れ視界がぼやけ始める。

 遠のく意識の中で、キリヒトは、ある声を聞いた。


(魔王の核は──)


 その声は、メイシスのものだった。

 後半部分が上手く聞き取れなかった。

 だが自分が聞き取れたところで、もう役に立てそうもない。


「トドメを指してやろう」


 ベルゼバブの握る鞭が硬質化し、刃となってキリヒトに振り下ろされる。

 周りに人の気配はなく、キリヒトは戦闘不能。

 勝敗は着いた。


………………はずだった。


「──っ」


 突然キリヒトの身体が燃えるように内側から魔力が湧き出し、目を開ける。

 そして咄嗟に技を繰り出した。


「封炎の一閃!」


 魔力はもう尽きたはず。

 それなのに何故融合(ユニオン)技が放てるのか。

 ベルゼバブ、否自分が1番驚いていた。

 分かることはただ1つ、これは自分の仕業でないということ。

 他の誰かによって、キリヒトは力を得た。


「まさか……」


 先程聞こえた声。

 なぜメイシスは魔王の核の場所を突き止められたのか。

 他のみんなが今どこで何をしているかは分からない。

 だがもしメイシスが魔王と対峙していて、最後の瞬間に自分達に加護を与えたのだとしたら。


「何故動ける?もうお前には魔力が残っていないはず……」


「……これは、仲間の魔力だ」


 キリヒトの鋭い眼光がベルゼバブを捉える。

 その目はまるで、轟々と燃え盛る炎のように紅く染まっていた。


「仲間を救う、その為にお前を──」


 キリヒトは剣を構え、全身に魔力を込める。

 そして、クリストロン装備でベルゼバブ目掛けて振り下ろした。


「──一刻も早く倒す!!!」


 1度は敗れたこの戦い。

 メイシスに託された力を使い、戦いは第2節へと駒を進めた──。

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