第163話 魔王vsメイシス&ヨハネ
【メイシス&ヨハネ視点】
全員が揃わないまま、魔王戦が開幕した。
当初の予定では援護役に回る予定だった2人のみでの戦闘開始に、最年長組の2人でさえ後退りをする程だった。
状況も理解出来ず、二人の目の前には生物最強である魔王がいる。
後ろにも前にも仲間はいないこの状況。
戦ったら死ぬ、それ以外の答えが出てこない。
「悪いがこの空間は中からは外には出られないようになっている。逃げられはしない」
「……っ、つまりどちらかが死ぬまで終わらないという訳じゃな」
「理解が早くて助かるよ。まるで妹そっくりだな、ヨハネ」
その言葉に、常に冷静沈着なヨハネが反応する。
明らかに地雷だ。
「どうせメイシスから、記憶を盗み見たのだろう?」
確かにヨハネはメイシスの記憶を見せて貰った。
妹の、聖女アリアの最後をこの目で見た。
それはもう、耐え難い苦痛だった。
「ヨハネ、挑発に乗らないで」
「……すまんの、助かった」
メイシスが動揺するヨハネを宥める。
今すべきことはただ1つ。
ユズル達と合流するまでどうやって時間を稼ぐか、である。
どう頑張っても2人では勝てない。
かと言って逃げることも不可能。
唯一勝ち筋があるとすれば、メイシスの禁忌魔法である拘束魔法と、ヨハネの審判の金槌が奇跡的に噛み合えば仕留めることが出来るかもしれない。
いや、それしかない。
魔王相手に時間稼ぎなど出来るわけが無い。
「メイシス、お主が作戦を立ててくれ。わしはこの目でお主を見れば作戦がわかる」
「……っ、分かったわ」
ヨハネの合図とともに、2人は動きだした。
まずは様子見。
メイシスの知る魔王と今の魔王との力の差を見る。
「禁忌魔法 吸収の蔓!」
無数の蔓が地面や壁から出土し、魔王を取り込もうと一心不乱に向かう。
向かってくる蔓を魔王は意図も簡単に切り裂いてしまった。
が、蔓の特性はただ巻き付こうとするだけでは無い。
魔王の攻撃を吸収し、その蔓はさらに強度を増した。
やがて蔓にあたる斬撃の音が刃物がぶつかり合うような鋼音と化す。
切っても再生し続け、魔力を吸い続ける蔓。
術者が死ぬか、目標の相手が死ぬまでその蔓が消えることは無い。
もちろん、禁忌魔法故の代償は存在する。
「もう寿命なんてあってないようなものだから!」
寿命7年。
それがメイシスが捧げた代償。
「真聖魔法 浄化の楼閣!」
魔王の足元から光の柱が突き上がる。
その光の柱は道中蔓に触れ、蔓はさらに強度を増し魔王に迫る。
息のあった連携技に一瞬戦えると思えた。
が、それは過信だった。
「火災」
遂に魔王から1つ目の魔法が放たれる。
その威力は、言うまでもなかった。
先程まで威勢よく飛び出していた蔓は全て燃え尽き灰となり、ヨハネが魔王の真下に刻んだ聖痕は焼き切られてしまった。
それだけでは無い。
爆風に乗って高熱の風が二人を襲う。
「熱っ……っ!」
「真聖魔法 浄化の城廓!」
ヨハネが壁を築き何とか身を守る。
が、それも長くは続きそうになかった。
(聞こえるか、メイシス君)
(ええ、聞こえてるわ)
通信魔法を使い、メイシスと会話を試みる。
(お主、この期に及んでわしに気を使ってるんじゃないかのう?)
(……)
ヨハネの言葉の意味を、メイシスはちゃんと理解していた。
人の生死を、自分が決めていいのだろうか。
その考えが常に脳裏に過ぎり、作戦を考える中でヨハネの審判の金槌を意識的に除外していた。
魔王相手に審判の金槌を打てば、ヨハネは死ぬ。
それが分かっているから、メイシスはヨハネに審判の金槌を打つよう命令できないのだ。
(わしは元より先の短い老いぼれじゃ。仮にこの戦いで生き残ったとしても、1年としないうちに死ぬだろう)
そういう話では無いことはわかっている。
寿命がどうとか、先が短いからとかは関係ない。
自分の判断で人を生かすか殺すか決めることを躊躇っているのだ。
(それにわしは、この日のために生きてきた。妹を殺した張本人を討つチャンスなんじゃ!わしに、やつを殺すチャンスをくれ!)
決してメイシスを気遣った言葉では無い。
ヨハネの本心で語った。
何十年も、妹を殺した魔王に復讐するために鍛錬を続けてきた。
そして今目の前に、その魔王がいる。
これ程幸運なことがあるだろうか。
(……分かったわ)
メイシスもついに腹を括った。
そして瞬時に作戦を構築した。
(……ありがとう、メイシス君)
作戦を見たヨハネは感謝を告げると、作戦通り城壁を解除した。
途端に晒される炎の海。
そこに目掛けて、メイシスが魔法を放つ。
「絶対零度!」
魔王の生み出した熱風とメイシスの氷風がぶつかり合い、激しく蒸発し合う。
蒸気によって視界が悪くなる最中、メイシスは続け様に魔法を発動した。
「雲隠れか……」
魔法でヨハネの姿を消した。
魔王相手に通用しているのか分からないが、それでも今はやれる事をやるだけだ。
ヨハネを隠し、審判の金槌が打てる状況を作る。
「分身・強化」
かつて大陸一の魔術師と呼ばれたメイシス。
その力は今も尚健在。
通常の魔術師ではすぐに魔力が尽きてしまうほどの事を、まんまとやってのける。
「固執する捕縄!」
十数人に分身したメイシスから、魔王目掛けていっせいに縄が仕掛けられる。
もちろんただの縄では無い。
物理的な縄ではなく、粒子によって構成された縄は魔力によって固められ、術者の魔力量に応じてその強度を増す。
抵抗するかのように見えた魔王だったが、予想以上の強度だったのか一瞬動きが鈍った。
その瞬間を、ヨハネは見逃さなかった。
「審判の金槌!!!!!!!」
かつて悪魔を滅ぼした魔法 審判の金槌。
遂にそれが魔王に振り下ろされた──。




