第161話 魔王討伐戦 開幕
翌朝、帝国の結界付近にて王都に乗り込むメンバーが全員集結していた。
1人の戦力も欠かさぬ為、最終点呼を行う。
アルバ村より、ユズルとユリカ。
フォーラ村より、キリヒトとミカエラ。
ウィズダ村より、メイシス。
竜の渓谷より、ドレーク、アーノルド、ティネーガ、及び竜人達数百名。
帝国より、ルイス、及び帝国兵数百名。
王都より、グランドゼーブ。
西の大陸より、セイラ。
セイントヘレナ公国より、ヨハネ。
以上が今回の出撃メンバーとなる。
それだけではなく、昨夜メイシスから通信魔法を教わったセイラが仲間のエルフ達に通信を飛ばし、援助を要請した。
合流するのは王都での戦闘中となるが、戦力が増えることに越したことはない。
問題は帝国に残る聖王を誰が護衛するかだったが、自ら志願して護衛してくれるものが居た。
「我がこの命に変えても護り切ろう。竜王の名において」
竜王が帝国に残ってくれる事になり、後ろは気にしなくて良くなった。
背中が頼もしいと、何の心配もなく戦うことが出来る。
「ここから先の指揮権を、グランドゼーブ、君に託したい」
ユズルはグランドゼーブの肩を叩きながら言った。
「王都軍の指揮官としての経験があるお前が1番適任だろう」
帝国軍の占める割合が多いためルイスに指揮権を渡しても良かったのだが、やはり王都のこととなれば彼が1番適任だろう。
だが彼は首を横に振った。
「いや、俺よりお前の方が適任だろう。指揮官というものは元より部下からの信頼あってこそのものだ。ここに集まった面々と1番深く関わっているのはお前だろう?ユズル」
「だが、俺には指揮官としての──」
「経験がないなんて言わせないぞ、ローレンス?」
「──っ!」
言われるまで、その意識がなかった。
確かに「ユズル」は指揮官としての経験が乏しい。
だが、「ローレンス」なら話は別だ。
かつてアイアスブルク辺境伯領の騎士団団長を務め、魔王戦でも指揮役のアギナルドに並んで前線を指揮した。
むしろ魔王戦を経験しているローレンスとメイシスこそこの場では最も適任と言えた。
「異論は無いみたいだぞ」
グランドゼーブの声にユズルは仲間の方を振り返る。
全員がユズルを期待の眼差しで見つめ、誰一人として意義を唱えるものはいなかった。
ここまでされて引き下がる訳には行かない。
「……っ、これより、王都に乗り込み!魔王討伐戦を開始する!」
ユズルは国全体に響き渡らせるかのように声を張る。
「ここにいる全員は、英雄として人類史に刻まれることだろう!」
声に熱がこもる。
「この戦いは、魔族との全面戦争となる!故に我々が敗北すれば、人類は再び囚われた世界で生きていくだろう!」
結界の中でしか生きられない狭く、苦しい囚われの世界。
全員の表情が一気に暗くなる。
「だがしかし!」
が、そんな空気を一蹴するかのようにユズルは叫んだ。
「我々が勝てば、この世界を魔族の支配から解放することが出来る!この世界の未来の為!人類の明日の為!我々は今日、ここで勝ち!ここで魔王の支配を終わらせるのだ!」
ユズルはシュバリエルを天に振り上げる。
その剣先に、頭を下げていた兵士たちの視線が集まる。
その表情はみな、覚悟を決めた勇ましいものだった。
「魔王討伐戦を開始する!!!!」
「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」」」
反逆の狼煙は今、打ち上げられた。
「ユズルさん!門のところに魔人が1.2.3……6名います!」
「王族階級の魔人はいるか!」
「いえ、恐らく階級を持たない魔人です!」
先頭を走るユズル達の目として、ユリカが千里眼を使って先の状況をユズルに伝える。
そこから瞬時に状況を理解し指示を出す。
「ルイスさん!帝国兵を20名ほど門にいる魔人に向かわせてください!」
「分かったわ!」
決して帝国兵を捨て駒に使う訳では無い。
事前に行った作戦会議にて、帝国兵達が自ら提案してきたのだ。
ユズル達主戦力組をできるだけ温存させるために、自分たちが下位の魔人の足止めをすると。
そうして王城までの道のりで幾度となく襲撃してきた魔人達のほとんどを、帝国兵が相手を引き受けた。
(もうすぐ王城なのに、未だに上位階級の魔人に出くわさない……。見え見えの罠だが、もう飛び込むしかない……っ!)
「……ユズルさん、王城の1階にワープの魔人がいます」
「……ついにお出ましか」
一足先に千里眼によって王城を透視したユリカがワープの魔人、王族階級第6位 デスピアスの姿を確認した。
遂に戦闘が始まる。
全員が腹を括り、王城の門を開いた。
開いた門から差し込む光の先に、彼女はいた。
武器を構え、戦闘態勢に入る。
が、
「──転移」
次の瞬間、ユズルたちの目の前の空間が割れ、全員が別々の時空の狭間に引き込まれた。
わけもわからないまま、瞬きのうちに別の空間に飛ばされる。
回りを見渡すが、他の人の姿は見えない。
「なんなんだ、ここは?」
そこはまるで、あのアイアスブルク辺境伯領にあるシュバリエルと初めて出会ったあの洞窟に似ていた。
「──久しぶりだな、ユズル」
「──っ!」
突然背後から声が聞こえ、振り返る。
その声には聞き覚えがあった。
「クロセル、ヴァージン……っ」
王族階級第2位クロセル・ヴァージンの姿が、そこにあった。




