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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第12章 夢境の精霊界編
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第155話 王都陥落

(力が……入んねぇ……)


 薄く開いた目から地上が見える。

 推定あと1分もしないうちに墜落するだろう。


(俺は、負けたのか……?)


 追撃は来ない。

 ふと目線を横に向けると、離れた位置で意識を失い落ちていくルーナの姿が確認できた。

 どうやら敗北した訳では無いようだ。

 良いように言えば引き分け。

 悪いように言えば共倒れ。

 このままでは墜落して2人とも助からない。

 そんな焦りとは裏腹にユズルの意識は混濁とし出す。


「──の揺籃(ゆりかご)


 意識が途絶える瞬間、声が聞こえた気がした。

 その声を確かめることも出来ないまま、ユズルは落ちていくのだった。





「ん…………」


 気がつくとユズルは、ユリカと作ったあの家にいた。

 体に痛みは無い。

 どうやらまた助けられたみたいだ。

 1枚壁を隔てた向こうから、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。


「アマリリス、水をください」


「あんた、私を水の精霊か何かと勘違いしてない?私はあくまで雨の精霊よ?全く……」


 ぶつぶつ文句を言いながらもユリカに従うアマリリス。

 2人はユズルが起きたことに気づくと、にっこりと表情を崩しながら寄ってきた。


「無事、終わりましたね」


「そう、みたいだな」


 ユズルがここに居るということは、後始末は2人がしてくれたのだろう。

 軽く会話を交わした後、ユズルが意識を失ってからの話を聞いた。

 墜落してくる2人をユリカが受け止め、その後ユズルは治療を、ルーナはアマリリスが拘束したそうだ。


「ユズルさん、戦闘中何か変わったことはありませんでしたか?」


「変わったこと?……あ、そうだ。実はいきなり信仰の力が増して……。あれが無ければ負けてたよ」


 それを聞いた途端、アマリリスがユリカに「ちゃんと届いたみたいね」とはにかんでみせた。


「実は、ユズルさんを見送ったあと私たちは人間界に1度帰還しました」


 そこで通信魔法を使い、希望を持つことが、光を信じる事が勝利への鍵であると全世界に発信した。

 それを聞いた各地の友人達が各々動き出し、あれほど膨大な信仰力を得られたのだという。


「メイシスさん、レーネさん、アナーニさんにアーノルドさん。ダイクさんにヨハネさん。それに、あのセイラさんも動いてくれたんですよ」


 今までの旅は全て意味あるものだった。

 あの日、結界を出たことはユズル達の運命を大きく変えたのだ。

 ユリカと出会い、結界を越え、魔獣と戦った。

 初めは、魔獣相手でさえ意識不明の重体に追い込まれるほど弱かったユズル達だが、フォーラ村での初めての対魔人戦、ウィズダ村での禁忌魔法の習得、竜の渓谷で見た竜人たちの舞、王都での大戦闘。

 そこから西の大陸に渡り、アイアスブルク辺境伯領にて王族階級の魔人との邂逅、そして別れ。惑わしの森ではフェアリーステップを習得し、王族階級11位フォルティストを倒した。セイントヘレナ公国では真実と歴史を知り、2年間という月日をユリカは審判の金槌習得に、ユズルは月と太陽の塔にて修行に充てた。 再会後、雨の精霊の元を訪れグランドゼーブと予期せぬ再開、和解。ユリカは雨の精霊アマリリスと契約し、3人がかりで王族階級3位であったジュピターを倒すことに成功した。

 その後東の大陸に戻ることになり、海でかつて王族階級であったモルディカイに力を託され、港でのキリヒト達との再開、そして故郷アルバ村への帰還。闇の精霊ルーナと対峙し、自分を育ててくれた師匠を自らの手で葬った。

 これまでの旅全てに意味があった。

 それを改めて考えさせられ、しばし感傷に浸る。

 が、すぐにユズルは顔を上げた。


「ユリカ」


「はい、いつでも行けます」


 言いたいことはわかってる。

 そう、表情が物語っていた。


「それじゃあこの永き旅に、終止符を打ちに行こうか」


「はい!」


 2人は手を繋ぎ、精霊界を離れる。

 戻ればそこは、地獄とかした現実がある。

 それでも、進み続けるしかない。

 ユズルの思いは、あの日から変わっていない。

 親友を目の前で失ったあの日から。


「魔王、俺が必ずこの手でお前を倒す」


 決意の元、旅人ユズルは目を覚ますのだった──。




同時刻 帝国インペリアル


「ルイス様、やはり今は国の防衛に尽力すべきではないでしょうか」


「この国を守っていたところでこの戦争は終わらない。人類存続のためにも王都に乗り込むしか……」


 帝国軍本部にて、ルイス率いる帝国軍が緊急会議を開いていた。

 題目は言わなくてもわかるだろう。

 魔王の王都襲来により、生存戦争が再び始まった。

 それにより帝国も王都に乗り込み加勢するべきという者と、国に残り防衛に徹するべきだという者で対立を極めていた。


「それに帝国と王都は長年邪険な関係でした。こちらから協力関係を持ち込むのは奴らに借りを……」


「このままでは王都そのものが無くなる!人類という種族もな!」


「だからといってわざわざ危険な場所に行くのも間違っています!まずは他の国や村との連携を図りましょう」


「そうしたいのは山々だが……っ」


 そうも出来ない理由があった。

 それは帝国が孤立していたという点だ。

 他の国との交友を絶ってきた帝国にとって、他の国への連絡手段は徒歩で赴く他なかった。

 だがそれでは時間がかかりすぎる。


「一体どうすれば……」


 頭を抱えるルイス。

 会議は混乱し始め、もはや収拾がつかない状況になった。

 その時だった。


「ルイス様!」


 突然扉が開き、門番を務める兵士が一人部屋へと入ってくる。

 その兵士の背中には血だらけの男が気を失いおぶられていた。

 そしてその背後にはもう一人の兵士が、50代半ばの初老の男を大切に抱き抱えていた。


「なんて、こと……だ」


 その言葉を発するのがやっとだった。

 彼らが連れてきた二人には見覚えがあった。

 いや、見覚えしかなかった。


「聖王と王都軍大佐グランドゼーブが亡命です!二人とも意識がなく、特にグランドゼーブは重体です!」


 グランドゼーブと聖王の亡命。

 それは、実質的な王都陥落を意味していた。





── 2時間前 王都エルミナス


「ローレンス式抜刀術──」


「何度やっても無駄だ」


 剣を構えていたはずの兵士は、瞬きのうちに壁にのめり込んだ。

 床には無数の亡骸が敷き詰められ、かろうじて立っているものは10人にも満たない。


「はぁ……はぁ……もう、全滅するのも時間の問題だ」


 王都軍大将ダインは、隣に立つ男にそう告げる。


「分かるとも、だが聖王は我々の命を引き換えにしてでも取り戻さねば……っ!」


 グランドゼーブの額に汗が滲む。

 戦闘が開始してもう10時間は経つ。

 それなのに一向に反撃の目処は立たず、援軍は王城を囲むように配置された王族階級の魔人達によってことごとく消されていった。

 ここは元々聖王の謁見の場であった。

 そこが今や血の海と化し、聖王は魔王に囚われいつ殺されてもおかしくは無い。


「……グランドゼーブ」


 ダインは目線こそ魔王から外さぬものの、グランドゼーブに語りかける。


「俺が聖王を奪取する。お前は聖王を連れてこの国から逃げろ。少しでも遠くに……!」


 その言葉を聞いた瞬間、グランドゼーブはその案を却下しようとした。

 だが、もうそれは出来ないところまで来てしまったのだ。

 ダインの覚悟に、案に乗るしかない。




 言葉通りダインは聖王を奪取した。

 ……自身の下半身を引き換えに。


「くそがぁぁぁぁぁあ!」


 グランドゼーブは叫びながら、聖王を担ぎ王城の5階から外へと飛び出す。

 そのまま真名を解放し、王都の外に向けて空を翔ける。

 が、王城の周りで待機していた魔人たちが見逃す訳もなくグランドゼーブの前に立ちはだかった。

 その猛攻を受け、全身から血を吹き出してもなおグランドゼーブは止まらない。

 自我を捨て、全てを斬りながら飛び続けた。




 この日、王都は実質的に陥落した。




 最終章に続く──。


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