第154話 決着
「──シン・シエル」
真名を取り戻した光の精霊カマエル&シュバリエルは、その姿を顕現させた。
熱さも眩しさもない、ただただ神々しい光を放つシン・シエルを前に、三人の大精霊は息を飲んでいた。
他の精霊たちとは桁が違う。
「確かに、今までの私だったら手も足も出てないわね。でも……」
ルナとサンが慄いている中、ルーナジアだけが1歩、また1歩と歩み寄る。
その足跡は闇に侵食され黒く光を失っている。
精霊王の光を上書きしているのだ。
「今、人間界は絶望の色に染っている……。この負の感情には、勝てないわ」
精霊王の威光とルーナジアの幽闇が交錯する。
精霊界2強のぶつかり合い。
その衝撃は、玉座を崩壊されるには十分だった。
「サン!私達は退散するわよ!」
「う、うん!」
崩壊する玉座の中、ルナとサンは昼夜の塔へと還る。
自分たちはここにいていい器ではないと判断したのか、はたまた自身の心の警戒信号に従ったのか。
細かいことはさておき、玉座が崩壊した今、戦闘は空中戦を余儀なくされた。
地上が見えないほど高度な場所での戦闘。
記憶を取り戻したとはいえ、感覚を思い出すにはまだ時間がかかる。
今のユズルは、まるで傀儡師のようだった。
「闇の追尾弾」
黒蛇のようにルーナジアから放たれた弾丸は角度を変え、四方からユズルを狙う。
ユズルは両手を広げシールドを展開するが、銃弾の数は増え続け視界が覆われた。
その物量に圧倒され、徐々にシールドの領域が狭まる。
(このままだと押しつぶされる……っ)
闇の力が膨大となっている今、彼女は精霊の中で最も強大な力を持っていることになる。
一対一の殴り合いなら、誰も敵うはずがないのだ。
シールドが突破される、その刹那。
前触れもなくいきなり全身に力が漲り出した。
この昂り方を、ユズルは知っている。
(この力は、信仰の力だ……)
決して闇の力が弱まった訳では無い。
だがしかし、光の力が増したのは確かだった。
おそらく人間界で何かが起きた。
闇の力が健在なことを見ると、魔王が討たれた訳ではなさそうだが、それでも光の力が増すような何かが起こったのだ。
(そんなこと考えるのは後だ!)
まずは目の前の敵を討つ。
ユズルはそれだけ見ていればいい。
「精霊王の威光」
自分を中心に、起爆したかのように一瞬にして世界が白く染った。
その衝撃波によって追尾弾は焼き消され、一気にルーナジアとの距離が詰まる。
「精霊ノ一太刀」
ユズルの振り上げた一閃はルーナジアの胸元を掠め、僅かに体勢が崩れる。
その隙を、ユズルは逃さなかった。
「初ノ型──」
ローレンスが生み出した剣技。
だがそれは全て、無意識に残っていたシン・シエルである時の記憶を複製したに過ぎない。
記憶を取り戻してわかったことがある。
それは今までの全てが繋がっていたこと。
カマエルの記憶。
シュバリエルの記憶。
シン・シエルの記憶。
ローレンスの記憶。
そしてユズルの記憶。
ローレンス式抜刀術は最初から存在していた。
自分がシン・シエルである頃の記憶にも、確かにこの剣技は存在した。
「これが世界最高峰の一撃だ!」
「精霊王は2人も要らないわ!」
ルーナジアも闇のオーラを放つ剣を構える。
そして──、
「──聖龍!」
「──闇斬!」
甲高い音が精霊界に響き渡る。
長きに渡る戦い、遂に決着──。




