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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第12章 夢境の精霊界編
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第152話 玉座へ

「カマエル、やっぱり来たのね」


 精霊王の玉座にて、闇の精霊ルーナは予想通りと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 ルーナにとっては、格好の獲物。

 彼の核は自分の手の中にある。

 いつでも消そうと思えば消せる。

 ……はずだった。


「さすが精霊王様ね。消せるならもうとっくに消してるわ」


 ルーナは何度も核の破壊を試みた。

 だが結果は見ての通り、傷一つ付いていない。

 絶対的(アブソリュート)解除(・キャンセル)でカマエルの力を押さえ込むのが精一杯で、決して壊すには至っていない。


「貴方が生きている限り私は王にはなれない。早く玉座にたどり着きなさい、カマエル」


 誰もいない玉座を前に、ルーナは今日も1人嘆くのだった。




 精霊界に来て1週間が経った。

 経ったと言っても、夜が来た回数が7回ってだけで時間は一切すぎていない。

 時間は進んでいないが、体力は徐々に消耗してきていた。


「このペースでは、闇の精霊を見つけてもまともに戦えるとは思えません。少し休みましょう」


「そうするべきなのはわかってる。でも……っ」


「ユズルさんが焦る気持ちも分かります。でも、焦って死んだら元も子もないです」


 ユリカに制止され、一旦冷静になるユズル。

 確かに今のユズルは焦っていた。

 それは、やはり自分の命が敵に握られているという恐怖から来るのだろう。

 自分の核を取り戻すまでは安心できない。

 この焦りがより一層ユズルを衰弱させていた。


「精霊王ともあろう者が、ダサいわよ」


 真横からそんな辛辣な言葉が聞こえてくる。


「アマリリス、今のユズルさんに強く当たらないであげてください」


「嫌よ。私達の王がこんなダサいヤツなんて絶対嫌」


 確かに今のユズルを一言で表せばダサいヤツだろう。

 自分の命を握られ、焦って取り乱して衰弱しきって、これが王なんて確かに嫌だ。


「……すまない、アマリリス」


「ふん。謝ってる暇あるならさっさと玉座に行きなさいよ」


「……?だからそれをずっと探してるんだろ。見つかってたら苦労しねぇよ……」


「何言ってんの?」


 アマリリスは「馬鹿なの?」のような表情でユズルを見下ろす。


「玉座が精霊界にぽつんとある訳ないじゃない。普通にそこら辺に存在したら誰でも玉座にたどり着けちゃうわ」


 アマリリスに言われハッとした。

 今まで考えたこともなかったが、確かに言う通りだ。

 精霊王の玉座がそんな簡単な場所にあるはずがない。


「じゃあ玉座はどこにあるんだ?」


「それは精霊王であるあなたしか分からないわよ!私に聞かないでくれる」


 アマリリスは「ふん」と鼻を鳴らし姿を消してしまった。

 アマリリスの言い方はまるで、精霊王のみがその場所を知っていると言っているようだった。

 だがユズルには玉座に至るまでの記憶が全くなかった。記憶が無いのではなく、単に覚えていないだけだろうが。

 唯一知る本人が忘れたとなると、闇の精霊同様、自分の力で探し出すしかない。

 そう思っていた時だった。


「お久しぶりです、ユズル」


 聞きなれた声がユズルの名を呼ぶ。

 そこには、シュバリエルがいた。


「何度呼びかけても返事がないから心配したぞ」


「すみませんユズル。ユズルが記憶を取り戻したのと同時に私も今まで忘れていた記憶の蓋が開きました。それを整理するのに少し時間がかかってしまいました」


「なるほどな。因みにシュバリエルは何を思い出したんだ?」


 光の精霊はカマエルとシュバリエル、二人で一人。

 同じ景色を、同じ記憶を共有しているかと思ったがそうでも無いようだ。


「私が思い出したのは主に精霊界にいた頃の記憶……。1番強く記憶に残っているのは、雲の上にいた記憶です」


「雲の上?」


 そう言われユズルはふと空を見上げた。

 まばらな雲の浮かぶ青い空。人間界と何ら変わりは無い。

 とある1点を除けば。


「……なんだ、あれ?」


 今まで気づかなかったが、空に黒い物体が不自然に浮かんでいる。

 そのサイズ感からしてかなりの上空にあるようだ。

 はっきりと分かることはそれは自然にあるものではなく、何者かの手によって作られた建造物であるということ。


「まさかあれが……!」


「恐らくそうでしょう。あの高さでは、大精霊でも到達できません」


 精霊の力は信仰の力によって決まる。

 大精霊はその中でも特に信仰された6人の、いわゆる精霊達の先鋭なのだが、それでも到達することは出来ない場所にあるという。

 道理で誰も到達できないわけだ。


「闇の精霊があそこに到達できたってことは、つまり──」


「──ええ、彼女は今精霊の中で最も力を持っている……ということでしょう」


 いつ力が逆転したか、カマエルの核が奪われたのはいつか。

 そう、全てはあの日、人類が生存戦争に敗北したあの日に入れ替わったのだ。

 希望が、絶望に。


「でもそれはあくまで力の差の話であって、玉座にたどり着けるほどの実力があるかないかという話ではありません」


「確かにそうだな。一度はたどり着いてるんだ、あそこに」


「はい。ユズルさんとシュバリエルならあそこまでたどり着けるでしょう」


 その言葉を聞いて、ユズルはようやく気づいた。

 ここから先、あの玉座に行くことが出来るのは自分だけなのだと。

 ユリカは精霊では無い。アマリリスだって大精霊ではあるものの、未だかつてあの場所にはたどり着いたことがない。アマリリスに関しては届くかどうか試してから決めればいいが、ユリカに関しては試すも何も挑戦権すら存在しない。

 つまりユリカはここに置いていくことになる。


「大丈夫です。ユズルさんならきっと勝てますよ」


 ユズルより先にユリカがそう口にする。

 気遣うための一言だとしても、そう簡単に出てくる言葉では無いことを、ユズルは知っていた。

 だからこそ、ユリカの言葉に甘え、ユリカの覚悟を受け入れ、先に進むしかない。


「ごめん、ユリカ。少し待たせることになるけどいいか?」


 ユズルは優しく微笑み、ユリカを撫でた。

 決してさよならは言わない。

 必ず勝って帰る。

 そして魔王を討ち、二人で幸せに暮らすのだ。

 そう考えればこの一戦は、少しの辛抱なだけだ。

 ユリカはきゅっと目を細め、はにかみながら「行ってらっしゃい」と伝える。


「じゃあ、行ってくる」


 ユズルは地面を大きく蹴る。

 そして玉座めがけて跳躍した。

 あっという間にその姿は消えてなくなり、背中を見守ってたユリカも見送る手を下ろした。


「……行かなくてよかったの?」


 ユリカは真横に立つ少女 アマリリスにそう語り掛ける。


「ユリカを1人にさせちゃうじゃない。それに……」


 アマリリスは二カッと笑い、


「私にはあの場所は遠すぎるわ!」


 そう言うのだった。

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