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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第12章 夢境の精霊界編
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第151話 精霊界

 野原に吹く風と、小川の音だけが静かに流れゆく。

どこを見渡しても建造物はなく、全てが元よりそこにあるかのような、作られていない世界。

 ハナヴィーラとはまた違った華やかさが、辺り一面に広がっている。


「帰ってきたんだな……ここに」


 ユリカのすぐ隣で、誰かがそう呟いた。

 故郷を懐かしむその声は、何処か寂しそうな、それでも内側には強い意志があるように感じられた。

 ここには、逃げてきたわけじゃない。

 戦いに来た。

 こんな美しい世界でこれから争いが起きるなど、誰が想像できるだろうか。


「それでは玉座を探しましょうか。時間は無限にあるとはいえ、体力気力は無限じゃないので」


「そうだな」


 ユリカに諭され、男はやっとその足を動かし始めた。

 男の名はユズル。

 幼き頃に2人の幼なじみを失い、魔王に復讐を果たすべく各地を旅した男。

 しかしその正体は、かつて魔王に一撃を与えた英雄ローレンスであり、6人の大精霊のうちの一人、光の精霊 カマエルであった。

 記憶を取り戻した彼らが訪れたのは、カマエルの故郷 精霊界である。

 ここにあるとされる精霊王の玉座、そこに居る闇の精霊 ルーナを倒し、自身の核を取り戻す。

 そのためにユズル達はここに来た。


「しかし不思議だよな。こうして精霊界で過ごしている時間は、人間界では0に等しい……というか0だっていう」


「人間界と精霊界は別の世界、時間軸が平行じゃないんでしょうね」


 時の流れが違う世界を、ユズルは1度体験している。

 月と太陽の塔がその例だ。

 あそこで過ごすひと月は、人間界じゃ約1年に匹敵する。

 今更その仕組みについて考えても仕方がない。


「精霊王の玉座について、なにか思い出せそうですか?」


「この場所の景色は記憶にないが、玉座の景色は記憶にある。もし記憶通りなら、神殿のような建造物があるはずだ」


 建造物が全く存在しない精霊界において、玉座の存在は異質である。

 その異質さゆえ、すぐにでも見つかると思っていたのだが……。


「どうやらその玉座を探すまでにかなり時間がかかりそうですね」


「そうだな。それなら拠点を作ろうか。そこを中心に徐々に索敵範囲を広げていく。どうだ?」


 ユズルの提案にユリカは頷く。


「いいと思います。寝泊まりする場所も必要ですし、今日はまず拠点作りをしましょうか」


 そうして2人の拠点作りが始まった。

 と言っても作るのはあくまで拠点。

 生活スペースを確保する必要は無い。

 寝床と物置だけを作り、その日の作業は終了した。

 辺りが暗くなり始め、2人は寝床の前で火を炊き暖を取る。


「……いつか二人で、家を構えましょう」


 焚き火を前に、ユリカがそう呟いた。

 その言葉が引き金となり、ユズルはずっと伝えようと思っていた言葉を口にする。


「ユリカ、この戦いが終わったら式を挙げよう」


「……?」


 最初こそ首を傾げたユリカだが、言葉の意味がわかった瞬間顔を真っ赤にし腕の中に顔を埋めてしまった。

 ユズルは優しくその腕を解き、目を見て言い放つ。


「──結婚しよう」


「──っ///」


 涙を浮かべるユリカを、そっと抱き寄せた。

 その表情からは、ユズルの覚悟が見える。

 必ず勝って、2人で生き続けるんだ。

 この、囚われた世界で──。



第12章 夢境の精霊界編 開幕──。

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