第14話 再戦
「ローレンス式抜刀術弐の型 旋風!」
騎士団に地上への逃げ道を作るように指示し、ユズルは副団長のレーネと時間を稼いでいた。
「地上に出たら俺が時間を稼ぐ!その隙にレーネさん達は地下通路を進んでキリヒト達と合流してくれ!」
「分かったわ!」
流石は副団長と言おうか。
普通の兵士ならここで躊躇いを見せるだろう。
その躊躇いが生死を左右すると理解しているようで、レーネさんからは躊躇いの色は見えなかった。
「ユズルさん!レーネさん!出口が確保出来ました!」
少し離れたところから作業に当たっていた兵士が叫ぶ。
「くっ……」
問題はどう引き寄せるか、だ。
ベルゼブブはわざわざ地下通路を戦場に選んだ。
恐らく地上より好条件なのだろう。
易々と出てくれるとは思えない。
なら、
「っ、総員撤退だ!全速力で村へ戻れ!!」
「……っ!」
ベルゼブブだけでなく、レーネや後方に待機していた兵士達も驚きを露にした。
ユズルは額に汗を浮かべ、焦った様子で逃げの姿勢に入る。
それを見たレーネも逃げの体勢を取った。
「そちらから仕掛けてきて、作戦通りに行かなかったから撤退じゃと?逃がして貰えると思っているのかのう。……お主には失望した」
「そう易々と捕まるもんかッ!ローレンス式抜刀術伍の型 聖蒼!」
「援護します!フィジカルスライサー!」
当然のごとくかわされるが、レーネの援護のおかげで反撃まで手は回らなかったようだ。
そして穴の真下に来た時、
「ローレンス式抜刀術壱の型──、」
軽くレーネの背中を押す。
振り返るレーネの瞳にユズルの口元が映る。
い、け
そのメッセージに目を見開きユズルと距離をとった。
そして、
「──煌龍!」
「……っ!」
ベルゼブブを天井へと突き上げる。
いきなり明るいところに出たからか目がくすぐったくなる感覚に襲われるが、そんなものに構っている余裕はない。
「っ、いまだ!行け!!!」
その言葉を聞き、体の向きを変えて走り出す。
「っ!行かせるか!」
「お前の相手は!」
地下通路に戻ろうとするベルゼブブの背中に向かって剣をふりかざす。
「俺だ!」
「がはっ!」
ベルゼブブを地面に叩きつけ、すぐさまクリストロン装備で上空に飛び上がる。
(兵の移動はまだかッ!)
地下通路に空いた穴から人の姿が見えなくなったのを確認し、
「ローレンス式抜刀術漆の型 櫛風!」
穴めがけて急降下した。
天井が崩壊し、地下通路が防がる。
「これで俺とお前の1体1だな」
「おのれ……ッ!」
「悔しいなら俺を捉えてみろよ」
そう言ってユズルはハルク村目指してクリストロン装備を起動した。
(キリヒト、無事でいてくれッ)
キリヒトの安否に全てを賭け、大空を翔けるのだった。
(ユズル、無事であってくれ……っ)
空気の流れが変わる。出口が近づいてきた証拠だ。
「っ、団長、その魔獣の大群は?!」
「お前ら!死にたくないなら走れ!」
その言葉を聞いた兵士たちが一斉に出口目掛けて走り出す。
だが、到底人の足では逃げ切れる訳もなく、次々と兵が魔獣の群れに飲まれていく。
「間に合えぇぇえ!」
地上へと体が出たその瞬間、背後で堤防が決壊するような感覚がキリヒトを襲った。
「届けぇぇえええ!!!!!!」
足に全魔力を集中させ宙を舞う。
(このまま時計塔までッ!)
時計塔までの距離はおよそ100m、高さも考えればそれ以上。
そこまで逃げ切れれば指示が出せる。
地上にいる兵士たちが、目を丸くして立ち尽くす。
(あと少し……!)
時計塔の壁に右手が掛かる。
「これで──」
振り返ったその刹那、
「ガァァァァァアア!」
キリヒトの顔面目掛けて魔獣の腕が振りかぶさった。
何とかかわせたが、その衝撃で時計塔が崩れ落ちる。
「くそっ、指示を出す隙もくれねぇのかよ!」
すぐに体勢を持ち直して魔獣の群れと向き合う。
(いくらなんでも数が多すぎる!)
20体はいるだろうか。
(これだけの数があの地下通路にいたのか)
中には翼の生えた魔獣もいる。。
翼がある分厄介且つ頑丈な為、幾度となく人類を苦しめてきた魔獣だ。
「全軍、戦闘態勢!待機していた3.4班は引き続き魔法の後方援護を頼む!残った1.2班は魔法班に敵のこぼれ球が当たらない範囲で戦え!決して一人になるな!複数人で行動しろ!」
「「「「「は!」」」」」
クリストロン装備のおかげで移動で使う魔力の量が軽減されたのは確かだが、魔力が切れたらクリストロン装備が動かないのはもちろん、ベルゼブブとの戦闘も困難になる。
(そもそもベルゼブブがここにいるのかさえ怪しい。ユズル達地下通路班との合流が図れていない今、向こうの状況が分からない)
自分がベルゼブブだったらどうするだろうか。
(地下通路の穴は地下通路におびき出すためにわざと開けたと仮定した場合、魔獣の群れを配置して戦力を削り、弱ったところを叩く為に隠れて待機するだろう)
だが、村にはいなかった。
もちろん村からあの地下空間までの間にも。
(だとしたら考えられるのは地上か、ユズル達の所……)
ベルゼブブがいないならもうユズル達と合流していてもおかしくない頃だ。
何かしらトラブルがあったに違いない。
「いづれにせよ……」
(まずは目の前の敵を倒すところから、だな)
そもそも今自分の置かれている状況が自由の効く状態じゃなかったことを改めなおす。
「始めるとするか、蒼き復讐の炎」
昼間でも肉眼で確認できるほど蒼く輝く炎が、キリヒトの体を包み込んだ。




