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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第11章 闇の精霊討伐編
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第144話 ボップ戦、決着

「……何故、真名解放を使わなかった?」


 村を守る森の大木に背中を打ち付けられ、足を大にして座り込むボップ。

 満身創痍のその姿から、彼がもう長くないことを悟る。

 全力を出し合った技の衝突は、僅かな差でユズルに軍配が上がった。恐らく、万全の状態であったなら負けていたのはユズルの方かもしれない。


「……真名、を……解放したら……ぜぇ……ルーナに……協力してる……みたいに、なるだろ……」


「何を言って……」


 ボップにはもう首をあげる力すら残っていないのだろう。じっと地面を見つめ、細々と言葉をつぶやく姿は、見るに耐えなかった。


「俺は……1度たりとも、闇の精霊を……信用したことはない……ゲホゲホっ!」


 血を吐き出す。

 今目の前で、自分をここまで育ててくれた育て親が死にゆこうとしている。

 それなのに、ユズルは黙って話を聞くことしか出来なかった。

 少しでも目を、耳を離したらもう、消えてしまいそうだったから。


「俺は、ずっと……闇の精霊を欺いて、きた。自分の思考……に、絶対的(アブソリュート)解除(・キャンセル)を……掛け、偽りの自分で……ぜぇ……居続けた」


「なんでそんなことを……」


「魔王を……倒すため、だ……」


 今までの1度でも、ユズルの前でボップが魔王に対して言及することは無かった。

 そんなボップの口から出た「魔王を倒す」という言葉にも、ユズルは眉をひそめた。


「俺にも……魔王に奪われた仲間が、沢山いる……。仇を打つためなら、例え偽りの自分でもいいと……思っていた。だけど……」


 ボップの頬に涙が伝う。


「お前、なら……きっと魔王の元に、たどり着く……。みんなの仇を……取ってくれるはずだ……」


「……っ、師匠」


 徐々に呼吸が浅くなるボップの手を握り、ユズルは一緒になって涙を流す。

 しかし、別れの時はすぐにやってきた。


「ユズル……俺の書斎に、全てを……残してきた。俺の……過去の、全てを……」


「……あぁ、分かったよ」


「……ユズル、俺は……ちゃんと師匠……出来てたか……?」


「……っ、あぁ!出来てたさ!貴方以上の師は、この世界どこを探してもいない!」


 感情が溢れ出して止まらなかった。

 ユズルの言葉を聞くと、ボップはかすかに笑い──、


「──ありがとう、俺のかわいいユズル」


 そう言い残し、ボップは眠りについた。

 永い永い、眠りへと。


「……そこに居るんだろ?」


 自分の師匠を手にかけてまで対話を望んだ人物。

 魔王を討つためには、こいつを先に消さなければならない。


「彼は最後まで私の真名を呼んでくれなかったわね。まぁ、いいのだけれど」


 先程まで契約を結んでいた主が死んだというのに、悲しみを一切見せないその態度に、ユズルは酷く嫌悪感を抱いた。


「あら私の前でその感情を出すのはやめた方がいいわよ。その感情は……私の力になるから」


 マイナス感情は全て彼女の力へと変換される。

 精霊はみなその信仰の強さで序列が決まる。

 魔王によって支配されたこの世界はまさに人々の悲しみや怒りなど、闇の精霊に取って都合のいい感情ばかりなのだ。


「それで、貴方は(ボップ)を殺してまで私と何を話すつもりだったの?」


「……お前の目的は、なんなんだ?」


 ヨハネさんから闇の精霊の動向については聞いていた。聞いていたからこそ、彼女の目的がなんなのかずっと謎であった。

 時に人に味方し、時に人の敵となる。身勝手で無責任な精霊。

 そんな彼女の出した答えは、


「──精霊王になることよ」


 単純且つ、予想外のものであった。




(ボップさん……)


 千里眼を通して2人の戦闘を見ていたユリカは、戦いの行方を見届け一人安堵していた。

 勿論ボップが亡くなったことに対する安堵では無い。ユズルを失わなくて済んだ安堵であった。


「さて、ここからは私の出番ですね」


 ユリカは足早にユズルの元へと駆け出した。

 ここまで手を貸さなかったのはあくまで2人の戦闘だったから。

 闇の精霊と戦うとなると話は変わる。


「必ず、ここで終わらせます」


 覚悟を決め、ユリカは大地を強くけるのだった──。


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