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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第11章 闇の精霊討伐編
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第140話 我が師

「光の精霊と雨の精霊が来てるわね」


「じゃあ向こうもお前に気づいてるのか」


 ボップの言葉に闇の精霊は首を横に振る。


「私は探知されない存在だから。それに、絶対的(アブソリュート)解除(・キャンセル)を持つあなたに憑依してるから、普通は分からないはずよ」


「普通は、ね。因みに彼らはその普通に含まれるのか?」


「分かってるくせに」


 闇の精霊はニヤリと笑い、ボップを後ろから抱きしめ耳元で「分かってなきゃ、わざわざ結界の外で会おうなんて言わないわ」と囁く。

 ボップは明日、ユズルから久々に2人きりで話したいと言われていた。

 だが指定された場所は村の中ではなく、外。つまり結界の外で会おうと言われたのだ。

 これが何を意味しているか、言わなくてもわかった。


「わが子同然の弟子を殺す覚悟は出来たかしら」


「……あぁ」


 弟子を手にかける。心優しきボップにとってそれは、想像を絶する程の苦しみだろう。

 そこまでしてでもボップは、闇の精霊に着く理由がある。

 ボップの瞳に、もはや光などなかった。




「師匠は、闇の精霊と契約しているんだね」


(あぁ……。何かの間違いであって欲しかった)


 あと少し、気づかないでいてくれたら。

 弟子(ユズル)を殺すことも、無かったのに。


「もう、隠せないみたいだな」


 ボップはユズルの言葉を肯定した。

 それと同時に、ボップは腰に掛けていた剣を抜く。

 戦闘開始の合図は、それで十分だった。


「ローレンス式抜刀術 壱ノ型 煌龍──」


「──っ、守ってくれシュバリエル!」


 さすがは師、速度も威力もユズルの上を行く。

 負けじとユズルも攻撃を仕掛ける。


「──参ノ型 劫火!」


 炎を纏った剣先が、ボップの懐めがけて振り上げられる。


絶対的(アブソリュート)解除(・キャンセル)


 ボップの口から聞き覚えの無い言葉が出る。

 その言葉と同時に、ユズルの剣が纏っていた炎がふっと消えた。


「な──」


「驚いてる暇はないぞ」


 すかさずボップは次の技を繰り出す。

 すぐには反応できない距離。

 しかしユズルの身体にボップの剣が触れることは無かった。


「2年経っても、覚えてるものなんだな」


 ボップは確かに強敵である。

 だが、その動き一つ一つに既視感があった。

 それもそのはず、ユズルに剣を教えたのは、ボップなのだから。

 彼の剣技を誰よりも近くで見ていた。

 見て、真似て、強くなった。

 彼から戦う術を教えて貰ったのだ。


「あれ?」


 突然頬に何かが触れ、ユズルはそれを手の甲で拭う。

 なにか液体のようだ。

 さっきの一瞬で傷を負ったのかと額に触れるが、特に傷は見当たらなかった。

 それもそのはず。


「ユズルお前、泣いてるのか」


「え?」


 拭った手の甲を見ると、確かにそこには透明な液体、涙が付着していた。


「なんで……」


 どこも痛くないと言えば嘘になる。

 自分をわが子同然に育ててくれた師匠を、ずっと背中を見てきた人を手にかけるなんて、生半可な覚悟ではできなかった。


「泣くなよ、こっちまで辛くなるだろ……」


 ボップの顔が少し歪む。


「ねぇ、師匠」


 ユズルは流れ続ける涙を拭いながら話す。


「俺たち、殺し合わなきゃダメなのかな」


「そういう契約なんだ。ルーナジアのことを知りたかったら、まずは契約者である俺を倒せ」


 全てを語るのは、決着が着いてから。

 頑なに話さないボップにも、ボップなりの覚悟と訳があるのだろう。

 ならば、全力でそれに答えなければ無礼と言うもの。


「ごめん師匠、もう大丈夫だから」


 いつの間にか涙は止まっていた。

 それは、ユズルの覚悟の証──。


「初ノ型──」


 これはボップも知らない、ローレンスの残した最初の型。

 この一撃で、決まって欲しい。

 そんな思いを乗せた、全力の一撃が今、


「──聖龍!」


 最愛の師匠に向け、振り下ろされるのであった──。

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