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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第11章 闇の精霊討伐編
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第139話 宴

「困ったことになってきましたね」


「……あぁ」


 村長宅を後にした2人は、途方に暮れていた。

 結論から言うと、なんの情報も得られなかったのだ。

 村長は彼について何も知らなかった。

 しかし冷静に考えれば、ボップはユズルが小さい頃からこの村の騎士団にいた。

 時系列で言えば、先代の村長の時代からこの村の重要人物のひとりであったのだ。


「となると、ボップが闇の精霊と契約したのは先代の村長の時代、か」


「もしくは、この村に来る前、ですね」


「その可能性もあるんだよな」


 実は二人はある可能性について考えていた。

 それは、ボップが結界の外から来た人間であるということだ。

 もしそうなら色々と合点が行く。

 闇の精霊と契約したのがまだ村の外にいた時代のことならば、誰も知らなくて当然だろう。

 それにキリヒト曰く、ボップは自身のことを「旅人」と名乗った。

 もし元々世界を旅する者だったのなら、その発言もうなずける。


「とにかく、本人から聞く以外の道は今のところなさそうですね」


「最悪のケースだな」


 どう切り出すか、もし切り出せたとして最後まで冷静な話し合いが出来るのだろうか。

 相手はボップ1人では無い。

 ボップの裏に闇の精霊が居るとするならば、全てを話してくれるとは到底思えなかった。


「夕飯の時に話を切り出すのは悪手だな」


「ですね。後日周りに危害が加わる心配のない場所……結界の外での話し合いがいいかと思います」


「そうだな」


 色々考えているうちに、ユズルは自分が生まれ育った家に到着する。

 この村にいる間は、ユリカはユズルの家に居候することになっている。

 一瞬でも、目を離すのが怖かった。

 何が起きるか分からない、それにユズルは1度両親にユリカを紹介しておきたかった。

 旅が全て終わったあと、ユズルはもう一度ユリカとこの家を訪れることになるだろう。

 その時は旅の仲間としてではなく。


「ただいま」


「おかえりなさい」


 無駄な言葉はかけず、そう言って2人を迎え入れる。

 話したいことは沢山あった。

 しかしいざ再開してみると、何から話せばいいのか分からず言葉が詰まってしまう。

 そんなユズルの様子を見て母は、


「ゆっくり聞くから、大丈夫だよ」


と優しく微笑みかけてくれた。

 募る話は後にし、二人は荷解きをし、ひとまずボップの元へと向かった。




 夕食はボップだけでなく、騎士団や村長たちを含めた数十人で行われた。

 正直ボップと今まで通り話せる気がしていなかったため、好都合だ。

 二人はしばらく外の世界のことを語り、村人たちの質問に答えていった。


「美人な魔人はいたか〜?」


「アズマニアさん、飲み過ぎですよ」


 食事会も気がつけば料理の皿は全て下げられ、雑談や酒飲み達の宴会場と化していた。

 飲みすぎた兵士たちがここぞとばかりに、少々下品な言葉をなげかけてくる。

 そんな酔っ払い達と距離を置こうとしたその時だった。


「旅と言えば、ボップも昔旅に出てたよなぁ?」


 どこからかそんな声が聞こえてきた。

 声のした方を見ると、そこには騎士団最年長のである老騎士がいた。

 その男の発言に、ボップは「なんの事だ?」とシラを切っていたが、二人は心の中でよくやったと叫んだ。

 それと同時に、村長がボップをよく知らないのにも納得がいった。

 老騎士を見ればわかる、恐らくボップが旅をしていたのはかなり昔。

 逆算すると、ボップがユズル達と同じぐらいの歳だろう。

 そうなると、ユズルはもちろん、騎士団の若手兵士は生まれてすらいない。

 これはかなりの収穫であった。


「……色々見えてきたな」


「……はい」


 宴会場の雑踏の中、二人はボップの過去について考えるのだった。




翌日。

 時刻は昼過ぎ。

 暖かい風が草原を吹き、春の訪れを感じさせる。

 ユズルが今いるのは、結界から少し離れた場所にある花畑であった。

 かつてこの場所で、ユズルは二人の大切な友人を失った。

 あの日から、全ては始まったのかもしれない。


「待たせたか?」


 ユズルの背後から誰かが呼びかける。

 それはユリカではなく、


「ちょうど今、墓参りが済んだところだよ」


そう言うと、師匠は「そうか」と微笑んだ。

 花が風に舞う。

 その花びらが頬をくすぐり、そして次の風に乗って空高くへと舞い上がっていった。


「師匠」


「なんだ?」


 ユズルは、まるであの頃のような優しい口調で、


「師匠は、闇の精霊と契約しているんですね」


そう、語りかけるのだった──。

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