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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第11章 闇の精霊討伐編
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第138話

 翌朝、王都に向かうキリヒトを送るため、かつてユズル達がこの村を出る時に見送ってもらった場所に足を運んだ。


「この先のウィズダ村を経由していくのが安全なんだよな?」


「2年前と変わっていなければ、そのルートが1番安全だと思う」


 旅の先輩として、ユズルはキリヒトに助言をする。

 しばしキリヒトがフォーラ村の人達と話した後、ティアナに一言二言話しユズルたちのもとへと帰ってきた。


「ティアナさんには、あれだけでいいのか?」


「あぁ。もう別れの挨拶は済ませてあるからな」


 どうやら一番最初に済ませていたようだ。

 元々ティアナから聞いた情報を頼りに王都に向かう訳だから、本人が知らないわけが無いだろう。

 この王都遠征は、ティアナの許可があっての事だということだ。


「俺も、愛する妻を置いて死ぬ訳には行かないからな」


「妻?」


 突然の発言に二人は聞き間違いを疑う。

 しかし、すぐに理解し祝福の言葉を送った。


「じゃあ尚更生きて帰らなきゃな。ティアナさんを一人にするなよ」


「……あぁ。それじゃあ、行ってくる!」


 キリヒトは村人に見送られながら、フォーラ村を後にした。

 姿が見えなくなるまで見送った後、ユズルは口を開く。


「それじゃあ俺らも行こうか」


「はい」


 昨日の夜、宿に帰って決めたこと。

 それは明日にでもアルバ村に帰ろうというものだった。

 ここで何日も足踏みしていては、今までの努力が無駄になる。

 元々急ぎ足でやってきた旅なのに、ここ数週間悠長にし過ぎた。

 覚悟を決め、二人はフォーラ村を後にするのだった。




 二人がアルバ村に着いたのは、昼過ぎの事だった。

 アルバ村を出たあの日、二人はこの山を無事に超えることすら出来なかった。

 そう考えると、二人の成長は凄まじいものだと言える。


「先生?」


 最初にユズル達に気付いたのは、アルバ村にいた頃の教え子達だった。

 ユズルの顔をひと目見る度に、一目散に集まってくる。


「先生!旅はどうなったの!」


「外のお話聞かせてー!」


 子供たちがわらわらと集まる姿を見て、少し緊張の糸がほぐれた。

 自分が生まれ育った村なのに、今自分はこの上なく緊張している。

 この村は故郷であると同時に、敵の根城なのだから。


「先生、先に行かなきゃ行けないところがあるからな。また後で、沢山話してあげるから」


 子供たちとそう約束し、二人は村長の家へと足を運んだ。

 村長の家に行くのは、挨拶のためでもあるがそれだけでは無い。

 村長の家に行けば、必ず奴がいる。

 この村で最も強く、最も慕われている騎士が。


「お久しぶりです」


 簡単な挨拶を済ませ、ユズル達は懐かしの村長宅へと入る。

 入ってすぐの客間にはやはり、彼がいた。


「久しぶりだな、ユズル」


「そっちこそ、元気そうで」


 2年じゃたいした外見の変化は無いものの、やはり意識してみると違いが見て取れた。

 やはりボップはユズルに、なにかを隠している。


「王都の襲撃時、グランドゼーブから救ってくれたのは師匠だよな」


「さぁな。俺はたまたま弟子に似た奴が厄介者に追われていたから邪魔しに入っただけだ」


 ボップは笑って見せた。

 ユズルの知る、優しさとユーモアさを併せ持つ師匠がそこにはいた。


「聞きたいことも話したいことも色々あるんだ。それこそ王都での出来事とかな。でも今は村長に逢いに来たんだ」


「話はあとにしよう」と告げる。

 今夜、夕飯を共にしようと約束し、ボップは村長の家を後にした。

 村長は「今お茶を入れますね」と、お土産話を聞く準備を整えようとしている。

 だが、それは二の次だった。

 ユズル達には、ここに来た本当の理由が存在した。

 ユリカの千里眼でボップが完全に居なくなったことを確認し、ユズルは本題を切り出す。


「村長、ボップについて知ってることを全て話して欲しい。これは、人生の存亡がかかった大事な問題なんだ」


 村長は茶葉をすくう手を止めると、静かに振り返るのだった。




「何しに戻ってきたかぐらい分かるさ。そろそろ頃合だと思ってたんだ」


 村長宅を出たボップは1人、あの暴龍が住んでいた洞穴の近くまで足を運んでいた。

 しかし入ったのはその洞穴から少し離れた場所にある小さな洞窟。

 入口は狭いが、中にはドーム状の空洞があり、まるでそこに何かがあったかのような作りをしている。


「さて、何から話すとするかな」


 今までの人生を振り返りながら、ボップは一人思い出に耽けるのだった──。

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