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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第2章 結界都市陥落編
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第13話 出陣



「これよりベルゼブブ討伐戦を開始する!」


 早朝の広場にキリヒトの声が響き渡る。


「作戦は事前に話した通りだ!俺率いる地上班がハルク村の正面から攻め、ベルゼブブの気を引く。その間にここに居るユズル率いる地下班はベルゼブブの背後を取れ!」


「「「はっ!」」」


 集まった兵士の数は約400人。

 騎士団だけでなく、今回の作戦に当たるにあたって募集をかけ集まった人達もいる。


「ここから先、生きて帰れる保証はない。今からでも遅くない、自分の心に再度聞いてみろ。引き返すならいまだ」


 その言葉を聞いた兵士が数名、顔を俯かせた。


「俺はここで去った者を誇りに思う。それが自分の心に従っての行動ならば。だが──」


 キリヒトが拳に力を入れる。


「ここにいる者の中には、ベルゼブブによって大切な者が失われたやつもいるだろう。それは俺も同じだ」


 キリヒトの手はかすかに震えていた。

 その光景に皆の顔色が変わる。


「やつを倒さない限りこの悲劇は終わらない。今日、俺たちの手で終わらすんだ。この村を守るために!」


 キリヒトは拳をあげる。


「この村の未来の為に、みんな俺に力を貸してくれ!」


「「「おおおおおおおおおおお!!!!」」」


「ベルゼブブ討伐戦を、開始する!」




 村を出てから約1時間


「……おかしい」


「何がおかしいんですか?」


「あ、いや……」


 副団長のライが問いかける。

 小柄な体に短い髪が特徴の、片手剣の使い手だ。


「俺の思い過ごしかもしれないが……どうも静かすぎないか?」


「確かに……村を出てからまだ一度も魔獣と接触してませんね」


「……悪い予感がするな」


「魔獣がいない分にはいいじゃないですか」


「それは……まぁそれもそうか」


 ユズルとファクト村に行った時も魔獣との遭遇がなかったことを思い出し、少し気持ちが楽になる。

 丘とも取れる小山から小鳥が飛び去るのが見えた。

 その背中を朝日が照らす。


「ほら、見えてきましたよ」


 そう言われて前方を見ると、ハルク村の中心に聳え立つ時計塔が見えた。


(ついに、か……)


 深く息を吸い込む。


「総員、警戒態勢へ!範囲200m以内になったら一斉に村へと突撃する!」


(やはりおかしい。まるで気配を感じない)


 悪い考えだけが浮かび上がり、進む足が重くなる。


「よし、200mを切った!1.2班は俺に続いて前進せよ!3.4班はその場で待機し、状況に応じて魔法支援を頼む!行くぞ!」


 約100名の大群がキリヒトに続いて村へと入る。


「周囲を確認しろ!異常を見つけ次第信号弾を撃て!散れ!」


 四方八方に広がり出す。


「どこだ……ッ!」


 既に村の中心付近に迫っていた。


(このままだとユズル達が裏取りできない……ッ)


 キリヒトはクリストロン装備を利用して時計塔をのぼる。

 村全体が見下ろせる場所だ。

 だが、


「……居ない?」


 少なくとも建物外にはベルゼブブの姿はない。

 それどころか、


「魔獣の一体すらいない……」


 明らかにおかしい。


「考えろ……考えるんだ」


 頭を抱え必死に探る。

 ……最悪の事態は、すでに移動していることだった。


(建物内か?いや、だとしても魔獣が一体も居ないのはおかしい)


「……っ、まさか」


 一つの可能性が脳裏をよぎる。


(襲撃時、奴らはどこから現れた?)


 バンッ!


 キリヒトが信号弾を打ち上げ、叫ぶ。


「奴らは……」


 作戦の失敗を悟り声が掠れる。


「奴らは、地下通路にいるかもしれない」




「暫く使ってなかったので、通気口がところどころ詰まっちゃてますね」


 ユズルの隣でそう語るのは副団長のレーネだ。

 一つ結びの長髪に、長槍が特徴的な凛々しい女性だ。


「一面傷だらけですね」


「襲撃時、ここを通って攻めてきたらしいからな」


 あの数の魔獣全てが通ったとは限らないが、少なくとも一体は必ず通ったのは確かだ。


「あ、向こう明るいですね。出口ですかね?」


「……そうだとしたらだいぶズレがあるような」


 キリヒトから貰った地図によると、もう暫くかかりそうだが……。

 ちなみにため口なのは、そっちのほうがいいと本人から言われたからである。

 決してなめているわけではない。


「とりあえず出口の手前まで行って待機しましょう!」


「そうだな」


 そう言って出口と思われる場所に近づく。

 ユズルの腰にかかっている剣は、おじいちゃんからの肩身の剣では無い。

 武器屋に作ってもらった特注品だ。


「新しい武器、いいですね〜。使って見た感じどうでした?」


「驚くほど手に馴染んだよ。昔から愛用してる剣かってぐらいに」


「それはそれは、良かったですね」


「ああ。キリヒト達には感謝だな」


 そう言って剣の鍔をなぞる。


「……?何か見えません?」


「ん、確かに……」


 目を凝らすと、出口付近に人影が確認できた。

 だがその影は人間ではなく……


「……まさか」


 近づくにつれてそれの正体が明らかとなる。


「また会ったな、小僧」




「間に合え!」


 地下通路にいるかもしれない、そう思わせる点はいくつもあった。

 ただ時計塔に登った時、決定打がキリヒトを襲った。

 ハルク村は拠点と言うにはあまりにも脆すぎたのだ。

 時計塔の上から見たハルク村の姿は崩壊した建物が並ぶ廃墟の町そのものだった。

 それでは奴らの拠点はどこにあるのか?


「奴らは……っ」


 伝達用に等間隔で兵を配置しながら奥へ奥へと走り続ける。


「奴らは襲撃時、どこから来たんだっ」


 そう、奴らはこの地下通路を使ってきた。

 否、移動のためだけに利用したんじゃない。


「この地下通路自体が、奴らの……っ!」


 咄嗟に踏みとどまる。

 目の前には広い空間が拡がっていた。


「……ここが奴らの拠点か」


 着いてきた兵に伝達を頼みその空間に足を踏み入れる。

 その刹那、


「ァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


「っ!上だとっ」


 咄嗟に受身を取り広場へと転がる。


「なんで地下通路に上があるんだ!」


 この地下通路は地上下4mのところに掘られている。

 故にこのような巨大な空間を作り出すのは不可能なのだが……

(まさかッ?!)


"丘とも取れる小さな山から小鳥が飛び去るのが見えた"


「あの時の丘、そうか、くそッ!なんで気づかなかったんだ」


 違和感の正体が明らかとなった。

 フォーラ村では定期的に結界外の調査が行われる。

 魔獣の生態に着いてや周りの地形調査、遭難者の救出等理由はいくつかあり、以前ハルク村までの道のりも調査したことがあった。

 しかし今日通った時、前回の結界外調査とは異なる点があった。それは、


「ここら一体は草原地帯なんだ!丘なんて存在しない!」


 迫り来る魔獣の攻撃を交わしつつ思考をめぐらせる。

 この数を一人で相手するのは不可能だ。

 騎士団が到着するまで時間を稼ぐ必要があった。


(クリストロン装備のおかげで何とかかわせてはいるが、反撃をしようとすると隙を与えてしまう……っ、それに地下じゃクリストロン装備の本領を発揮できないッ!)


 足場が地面しかなく、尚且つ天井が低い地下ではクリストロン装備の本領が発揮できない。

 それどころか力加減をミスれば壁に衝突する危険性さえある。


(ここは逆に地上まで誘導するか?移動に時間がかかるが、このまま長々とここで戦う方よりはいいだろう)


「ァァァァァァァァァァァァッッッッ!」


「っ、こっちだ!」


 来た道を辿るように駆け抜ける。

 減速は許されない、故に振り返ることの出来ない恐怖と戦いながら加速する。


(早くユズル達と合流しなくては……っ!)


 息を着く隙さえない状況に、既に脳は瀕死していた。


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