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第132話 元王族


 嵐から一転、翌朝になると空は晴れ、雲ひとつ無い晴天が訪れた。


「嵐の後はよく晴れますね」


「これなら今日中にでも船を海まで運べそうだな」


 船の乗組員は全部で15名。

 そのうち力仕事に自信がある者、魔法が得意な者などなど、船を運ぶという点では人では十分であると言える。

 魔術に心得があるものが木を切り倒し、魔法を使ってそれを船の前に並べる。

 力仕事に自信のあるものは船を押し、丸太の上を転がしていく。

 朝から始まった作業も、日が頭上の真上に上がる頃にはペースが増し、作業は順調に見えた。


「おーい、ちょっとこっちに来てくれ」


 昼休憩をとっていた際、一人の乗組員が皆を呼んだ。

 その乗組員に連れられ船の一部を見て、全員の顔が曇る。


「このまま海に出ていたら、終わっていたな」


 船の底、丸太と接している部分に大きなヒビが入っていたのだ。


「……すみません、自分が力加減できなかったせいです」


 ユズルは謝る。

 恐らくこのヒビは、島に乗りあげる時にできたヒビだろうとユズルは思ったのだ。

 だが、


「いや、君は謝らなくていい。このヒビは多分移動作業の間にできたものだ。朝、船の周りを確認した時にはこんなヒビはなかった」


 船長がそういい、何人かの船員を集める。

 どうやら修理の必要がありそうだ。


(どっちにしろ俺のせいな気が……)


 申し訳ないと反省する。


「一旦作業は中止ですね」


「だな。船の修理に心得がない俺たちは、しばらく船の安全確保役かな」


「そうですね。ですがこの島……」


 ユリカは眉を顰める。

 ユリカの言いたいことはユズルも分かる。

 この島は不気味なのだ。

 一般人にはこの島は普通の島のように見える。

 なんなら周りは透明度の高い青い海が拡がっており、海岸には真っ白な砂浜が広がる、綺麗な島に見えるだろう。

 だがユズル達はこの島にある疑問を抱いていた。

 それは、


「この島、生物の気配を感じない」


「ユズルさんも気づいていましたか」


 そう、この島には命を、生き物の気配を感じないのだ。

 まるで全てが死んでいるかのように、なんの気配も感じない不気味な感覚。

 気味が悪い。


「さっさとこの島を出たいな」


「私もなにか嫌な予感がします」


 考えすぎかもしれない。

 もしかしたら嵐の後で生物は皆どこか気配を感じない場所に隠れているだけなのかもしれない。

 だとしたらユリカの千里眼に映らないのはおかしい。


「──貴方からはあの人と同じ匂いがしますね」


 考え事をしていた脳が瞬時に切り替わる。

 音も気配もなく、それはユズルたちの背後に現れた。


(ありえない……)


 声が聞こえた今も尚、自分たちの背後に誰かがいることを信じられなかった。


「そう警戒しないでください。私はあなた達を殺したりはしませんよ。……まぁ私の意志とは裏腹に、私の周りの生命は皆朽ちてしまうんですけどね」


 この島に気配がない理由が今、わかった。

 ユズルたちの背後にいる者がこの島にいるから、生命は存在できない。

 単純であり、理解し難い事実。


「お話しませんか?もう何十年も人と話していないので寂しくて」


 話し声は穏やかで、品のある話し方であった。

 だがしかし、2人は後ろにいるものが人間では無いことを確信していた。

 生命が存在できない島で、何十年も生き長らえることが出来るのは、食事をしなくても生きてける種族ということ。

 そんなもの、聞かずともわかる。

 今2人の後ろに立っているのは、魔人だ。

 それもかなり強いとみた。

 能力だけでなく、己の気配すら消すことの出来る芸当。


「……誤解を解くために一つだけ質問させてくれ」


「なんでしょうか?」


「俺は生命が朽ちる条件は、お前の姿を眼中に映す事だと思っている。だから今も尚振り返らずにいる」


 可能性は無くはない。

 不安の種は予め決しておくに限る。


「そう警戒しないで大丈夫ですよ。私にはもう、そのような力はありません。ただ生命が絶滅してしまった島に、新たな生命が生まれることは無い。生き物は本能でこの島を危険と判断し、移り住むこともなかった。故にこの島には生き物が居ない、それだけの事です」


 理にかなった説明だった。

 だがその言葉の証拠がない。


(やつは殺そうと思えばいつでも俺たちを殺せた。だがそれをしなかったということは……)


 ユズルは恐る恐る振り返り、声の主を眼中に収める。

 どうやら彼の話は本当だったようだ。

 だがしかしユズルの表情は困惑の色に染った。

 それもそのはず。

 命がないものの気配は感じ取ることが出来ない。

 そう、彼は己の気配を消せるのではなく、そもそも気配が存在しないのだ。

 なぜなら彼は、骸骨なのだから。


「すみませんこんな姿で。怖がらせてしまいましたか?」


「いや、振り向きざまに襲ってくるような魔人と比べたら、割とましかも」


「それは良かった。この島に立ち寄った人は皆、この姿を見た途端顔色を変えて逃げてしまうので」


「その気持ち、分からなくもないな……」


 実際、強がっているが割と叫びそうだった。

 常に前線で戦っているユズルはまだ魔族というものを間近で見ているため、理解し難い不可思議な姿を何度も見てきたが、普通の人はそうでは無い。

 常識を逸した姿に、人々は恐怖を抱くだろう。


「ユズルさん、私も振り返っていいですか?」


「ユリカ、先に聞くがお化けとかって大丈夫か?」


「?あんなのただの思い込みですよ?存在しないものは怖くありません」


「そうか、なら振り返っていいぞ」


 冷静に考えればユリカがお化けなんかで怖がるわけがなかった。

 ユズルは納得したかのように頷く。

 ユリカは振り向き骸骨を見て一言。


「きゃー!!!!!!!!!!!!!!!」


 怖くないとは何だったのか。

 ユズルの今の納得はなんだったのか。

 島中に響き渡る程の悲鳴。

 これほどまで大きな悲鳴をあげるユリカを初めて見た。

 恐怖で硬直したユリカに、骸骨は「怖くないよ」と笑ってみせる。

 だがユリカの顔には一切の笑いはなかった。

 ……数分後、落ち着いたユリカが赤面しながら「取り乱しました……」といい、ようやく話が進んだ。


「それで、その……お前は何者なんだ?」


 最初に聞くべきことだ。

 魔族であることはほぼ確定。

 実力も、かなりあると思われる。


(下手したら貴族階級ってことも有り得るな……)


 王族階級でなくても、貴族階級なら十分な実力者だ。

 過去に対峙したベルゼブブだって、貴族階級の魔人であるにもかかわらずフォーラ村を1人でほぼ壊滅させ、隣のハルク村を無きものにした。

 しかし彼の口から放たれた言葉は、予想外のものだった。


「自己紹介がまだでしたね。私は元王族階級第六位 モルディカイです」


「王族……階級…………っ」


「元、ですよ」


 穏やかな表情でそう付け加えてくる。

 元王族階級、それも第六位という実力者を前に、ユズル達はただ立ち尽くすしか無かった。

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