第12話 ファクト村
「見えてきたぞ」
「あれか……」
キリヒトの指さす方向には巨大な要塞があった。
「あれ、どうやってはいるんだ?」
「俺がいた頃は正門があったが今は分からん。とりあえず元々正門のあった所まで移動しよう」
ファクト村。
しかしユズルの目には巨大な要塞に見えた。
外観だけが要塞であり中は他の村と同じなのだろうか。
「と、まぁここが正門のあった位置なんだが……」
そこには周りと変わりなくただ壁が拡がっている。
「村への入り方を聞いておく出来だったな……」
キリヒトがそう唸ってきた時、二人を赤い光が照らした。
「なんだこれ?」
「分からない……だが」
「悪い予感が……」
「生命体接近確認、護衛兵出動せよ──」
警報音と共にアナウンスが流れる。
「恐らく俺たちを魔物が何かと勘違いしたんだろう。逆に護衛兵を呼んでくれて助かった、これで中に入れる」
「それもそうだな。しかし急に来られると心臓に悪いな」
警報音がなり始めてから約一分後、ファクト村の護衛兵と思われる武装集団がやってきた。
「いやぁすまんかったなぁ。ありゃあまだ試作品でなぁ、見分けられんのよ」
護衛兵と無事話をつけ要塞内に入った二人は例のアナーニさん宅を訪れていた。
「それで今日は急にどうしたんだ」
「……暫くあってないのに、俺がキリヒトだとなぜ信じた?」
護衛兵に要件を話したところ、本人確認の為にアナーニさん宅まで案内された。
アナーニさんはキリヒトのことを疑うことなく家の中へと招き入れた。
「ひとつ屋根の下で暮らしたやつの顔を忘れるわけが無い。それに……、父さんに似てきたな。そっちの村のみんなは元気か?近々訪問するつもりだったんだが」
「……フォーラ村は今、ほぼ壊滅状態だ」
「……何があったんだ?」
「魔人の襲撃を受けた。ベルゼブブだ」
「……そうか、だがそんな村の危機になぜお前さんがここにいる?」
「ベルゼブブの呪術を受けたと複数の報告があった。そのうちの一人が俺の後ろにいる奴の連れだ」
「はじめまして、アルバ村のユズルです」
軽く挨拶を交わす。
「俺たちはベルゼブブと早期に決着をつける必要がある。それでアナーニさんが開発しているクリストロン装備を譲っていただけないか交渉しに来たんだ」
アナーニさんが眉を寄せる。
その仕草にユズル達は息を飲む。
「……危険に身を晒そうとしているやつの背中を押すのは少し躊躇いがある。だが、」
アナーニさんが大きめの箱を運んできた。
「お前たちの目には躊躇いが見えない。覚悟を決めた奴の背中を押すのは躊躇わない」
箱を開け、その中身が明らかとなる。
「近々そっちの村を訪れようと思っていた、そう言ったな」
「これは──」
「持ってけ、完成品だ」
アナーニさんに誘われ食事を済ませる。
お互い話したいことは山々な様子だったが、無事に帰ってくることを約束してお預けとなった。
日が沈みかけ、キリヒトとユズルは村を後にした。
足にクリストロン装備を装備して。
「この移動中に基礎的な動きや力の制御の感覚をつかんでおけ。明日実戦形式で調整だ」
「そして明後日は……」
「ああ」
明後日。
呪術を解除するためには必ずベルゼブブを討たなければならない。
それと同時に、こちらから魔人を襲撃するということは死を意味する。
二日後、泣いても笑っても必ずどちらかは死ぬ。
「もちろん実力だけで勝敗が決まることがほとんどだ。だが、一番大切なのは気持ちで負けないことだ。一瞬の気の迷いが永遠の後悔を生む」
前を飛ぶキリヒトの背中が夕日に照らされ紅く光る。
「人の目は気にするな。自分で考えて行動しろ。当日俺はお前と一緒にはいられない、だから──」
「安心してくれ」
キリヒトの負担にだけはなりたくない。
「お互い、悔いの無い選択をしよう」
「……ああ」
そう、誓った。