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禍々しき侵食と囚われの世界【最終章開幕】  作者: 悠々
第10章 精霊の号哭編
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第123話 しがらみからの解放

「落ち着きましたか?」


「う……うん……………ぐすっ」


 腕で涙を拭うアマリリスの腰をユリカが優しくさする。

 今まで何百年と閉ざされていた感情の蓋が開かれたのだ、泣きじゃくるのも無理は無い。


「辛い時にごめんなさい、移動します」


 バツの悪そうにユリカがアマリリスの手を引く。

 アマリリスは涙目のまま疑問の表情を向けた。


「先程の男を追います、着いてきてください」


 先程アマリリスを犯人に仕立てあげようとした男の後を二人は追う。

 2人の姿は見えていないので、堂々と尾行が出来る。

 男は寄り道することなく町を抜けると、森の中へと入っていった。


「あの男が犯人なの……?」


「いえ、おそらく違います。彼の向かう先に親玉がいると私は睨んでいます」


 ユリカの予想が……三人(ユズルたち)の予想が正しければ男についていった先にいるのは……。


「この事件の裏には魔人が絡んでいると思います。……心当たりはありませんか?」


「魔人……もしかして──」


 アマリリスが言葉を発する前に、男が目的地である小さな小屋に到着する。

 その戸を開けると床に取り付けられた扉を開け、地下へと続く階段を降りていく。


「ユズルさんがいたら、「また地下か……」って言ってましたね」


「ユズル?」


「こっちの話です」


 ユリカは軽く笑みをこぼす。

 そうして降りていった先にはまたしても強固な扉がひとつ。

 男がその扉をノックし、返事の後扉を開けた。

 続けて2人も部屋の中に入る。


「思ったより広いですね」


 その部屋……いや地下空間は予想を遥かに超える広さであった。

 メイシスが住んでいたあの地下空間とは、とても比べ物にならない。


「──報告せよ」


 奥の暗闇から低い声が聞こえてくる。

 その声に男は肩を震わせ、怯えながらも先程の出来事を報告した。


「アマリリスへの町の住人の信仰心は本物です。簡単には──」


 男の声は突然にして消えた。

 首から上が繋がっていないのだから、喋れなくて当然である。


「お前らもこうなりたくなかったら、信仰心を揺るがせる策を考えろ」


「は……はい……っ!」


 目の前で斬殺された仲間を横目に、子分のような男たちが震えながら返事をする。


「いいか、この国を落とせば大精霊の力をひとつ無効化できるんだ。そうすれば俺も、王族階級の魔人に……」


 奥の暗がりから、ついに親玉が姿を見せる。

 その姿を見た瞬間、アマリリスは声を失った。


「あの人は……私が1人になった時に手を差し伸べてくれた…………何で……」


「やはりそうだったのですね」


 2人の視線の先にいたのは、一人の魔人。

 だがしかしその正体を、二人は知っていた。

 アマリリスは自分を救ってくれた恩人として。

 ユリカは自分たちを襲った敵として。


「彼が、この事件の元凶なの……?」


 未だ信じられないとした反応を示すアマリリスに、ユリカは躊躇しながらも話す。


「彼がこの事件の元凶なら辻褄が合います。事件の首謀者ではなく人間に矛先を向けさせたのも、また逆に人間の信仰心を曲げられたのも全て、彼なら出来ます」


「私はずっと、騙されていたの……?」


「はい。あなたを裏切ったのは人間ではなく、魔人だった。この国は初めから裏切りなど存在しない、人間と精霊が共存する国だった。しかし魔人である彼が国を滅ぼし、貴方を騙して人間を追い出した、大精霊の力を自身のものにするために」


 気がつけばアマリリスの表情は困惑から怒りへと変わっていた。

 無理もない、自分の理解者だと思っていた男が全ての元凶であったのだから。

 幸せだったあの日々を壊した、張本人だったのだから。


「……ユリカ、元の世界に戻して」


「納得、出来ましたか?」


 アマリリスは無言で首を縦に振る。


「あの男は、私がやらなきゃ──」


 覚悟の決まった顔を見て、ユリカは頬を弛めた。

 周りの空間が白く光だし、霧のように消えていく。

 その霧は空間だけでなく、アマリリスを取り巻くトラウマさえももち去っていった──。


──そして。




「所詮人間、幾ら修行しようとも、種族の壁は越えられない」


 ジュピターの声が崩壊した国に響き渡る。

 魔人の前に、地面に伏せる二人の男達。

 全身は強い力で押しつぶされたように歪み、絶えず出血が続いている。


「終わりだ、流星(メテオ) ──」


「──させない」


 無数の水の球が槍のように魔人(ジュピター)に降り注ぐ。

 ジュピターは咄嗟に振り上げた腕を地面に伏せる男たちに振り下ろした。

 巨大な魔力の玉が隕石のように音速を超え降り注ぐ。


「──障壁(バリア)


 その隕石は男たちに触れることなく砕け散る。

 巻き上がる砂埃の中、視線の先にはブロンドの髪を揺らした少女が、2人を守るように立っていた。


「……救えたんだな?」


「はい。彼女の復讐のためにも、力を貸してください」


 あたたかい光が2人を包み、たちまち傷が癒え始める。

 回復魔法で、ユリカの右に出る者は居ない。


「作戦その1は無事成功、と」


 雨の精霊を過去のしがらみから解放することに無事成功し、残すは彼女が魔人を討ち服従を果たすだけ。


「さぁあとひと踏ん張りだ!」


 王族階級第3位 ジュピター討伐戦 開戦──。

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